金利引き下げがあればGDP予測を下方修正すべき?

一昨日のエントリの脚注ではジェームズ・ハミルトンの時系列分析の教科書中のVAR批判について触れた。そのハミルトンがEconbrowserでシムズの業績を「radical step in the direction of transforming macroeconomics into a much more objective, scientific inquiry, and is part of the bedrock of the discipline these days(マクロ経済学をこれまでより遥かに客観的で科学的な追究に転換するという方向への劇的な進歩であり、今日ではその分野の基礎となっている)」と評している。だがそのすぐ後には「We still have quite a ways to go in terms of achieving this goal, but owe a great debt to Sims for helping to steer us onto the right track(その目的を達成するためにはまだ道程は遠いが、正しい方向性を示したという点でシムズに負うところは非常に大きい)」と付け加えてVARが未だ完全から程遠いことを示唆し、その点では前述の批判を念頭に置いているようにも読める。


一方、Nick Roweがそのハミルトンのエントリに反応した。具体的には、FRB金利引き下げがあった場合に今後数四半期のGDP予測を修正する際の客観的なツール、とハミルトンがVARを描写したのに対し、金利引き下げがGDP予測にどのような意味を持つかは、予測者が中央銀行の情報をどう評価するかに依存する、とRoweは指摘した。即ち、そうした金利引き下げが予測者の予期していなかったものである場合:

  • 予測者が、自分の方が中央銀行より総需要に関して分かっていると自負するならば、中央銀行は単に間違いを犯したのだと断じ、GDP予測を引き上げる
  • 予測者が、中央銀行が自分の知らない情報に基づいて金利引き下げを行ったと考えるならば、需要は自分が思っていたより弱いと受け止め、そうした需要の弱さを中央銀行が見い出してから政策を発動するまでに時間が掛かることを考慮し、今後数四半期のGDP予測を引き下げる

のいずれかである、とRoweは論じている(金利引き下げが予想通りだった場合は、GDP予測を変更する必要は無い*1)。そして、実際には予測者が前者のように傲慢であるとは考えにくく、そうなると、シムズの手法からは後者の結論が出てくるのではないか、と彼は言う。


さらにRoweは、コメントでのやり取りで、以下の仮想的な状況について論じている。

  • 自分の想定していない中央銀行金利政策が、2年後のインフレと相関を持つことが実証分析で確認された

その場合、その相関は

  • 真にランダムな金利政策のインフレへの効果を示す
  • 自分の想定外の情報に中央銀行が反応しているが、その反応が過剰もしくは過小である

のいずれかであると考えられるが、前者と受け止めることは無いだろう、というのがRoweの論点である(Roweはこの論点を、Thomaの解説における「最適制御が存在する場合」の因果性の落とし穴のケースと位置づけている)。

*1:彼がエントリの最後でリンクしている自分の以前の共著論文では、米国が金融政策でうまくGDPを平滑化している場合にはGDPが予測できない、という彼の持説(cf. ベックワースによるVARを用いた検証)が論じられると同時に、香港のようなドルペッグ制を取る国のGDPは米国の金融政策と因果性が出てくる、という考察に基づいた実証分析が行われている。