またこのネタを引っ張ってしまうが、今日は簡単な計算とそれに関する考察。
これまでファンドの買取価格Pbが競争市場でファンド期待収益=ゼロのブレーク・イーブン価格になることを前提にしていたが、実際には高めの価格になってしまうことも考えられる。
仮に買取価格がPb+Rとなった時、Pbの場合に比べ、Rだけ銀行が得をするのは明らかである。では、対応する損失の内訳はどうなるだろうか?
まず、ファンドの期待損益を計算してみる。
よって民間が-βR(p1+(1-p1)α)、財務省が-(1-β)R(p1+(1-p1)α)だけ損をする。
次に、FDICの期待損益は、
よって買取価格がブレーク・イーブンの場合に比べ、-R(1−(p1+(1-p1)α))だけ余計に損をする。
三者の損失の合計はRになるので、ちょうど銀行が得した分に対応する。この三者の損失の比率を各p1の値についてグラフ化すると以下のようになる(αとβはガイトナー案の値(α=1/7、β=0.5)を使用)。
直観からも明らかな通り、p1が低い、即ち真の価格が高い可能性が低いと、FDICのガイトナー・プットの損失割合が高く、p1が高くなるにつれ、ファンドの出資者の民間と財務省の損失割合が高まっていく。
なお、以前、小生は、マンキューの資本注入案(本人は今回のガイトナー案との類似性を強調している)について
民間の出資=善という考えが背景にあるわけだが、出資者のスクリーニングや制度設計に気をつけないと、悪どい出資者が銀行側と共謀して政府側資金を騙し取る恐れもあると思われる。
マンキュー on 金融危機対応 - himaginaryの日記
と書いたが、こうしてみると、この懸念は今回のガイトナー案についても当てはまるような気がする。というのは、買取価格を高めに設定した分(=上式のR)を裏で銀行からファンドの民間出資者に還流する仕組みを作った上で、オークションでRを吊り上げるインセンティブをファンドの民間出資者と銀行の双方に与えるスキームとなっているからだ。
これは小生だけの考えではなく、たとえば、ryozo18さんが紹介したNYTの討論サイトで、サイモン・ジョンソンがまさにそうした懸念を表明している
This kind of complex market-based scheme makes scams easy. After less than 24 hours, the Internet already abounds with detailed and plausible proposals regarding how to take unreasonable advantage of the plan, either if you are an independent hedge fund buying toxic assets or the employee of a bank selling the same or – ideally – someone with connections to both.
Will the Geithner Plan Work? - The New York Times
(強調は小生)
また、小生は別のエントリで
本来の民間市場が凍って動かない時に、こうしたオークションの仕組みを整えて官製市場を作ればそれだけでうまく行くものなのだろうか? それ以外に、やはり政府ならではの役割を演じる場面があるのではないだろうか?
コーディネートはこうでねえと - himaginaryの日記
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極力民間に任せたい、という気持ちは分かるが、いわば政府がただ横で突っ立っているだけの状況で、民間の人たちに、さあいらっしゃい、…と呼びかけても、そうは問屋が卸さないだろう。
とも書いたが、実際、今回のガイトナー案では、上記の不正行為のインセンティブを除き、民間ファンドに出資を促す仕組みが乏しいように思われる。クルーグマンも、市場を作ってそこを通せばとにかく良いんだ、それですべてがうまく行くんだ、という考えを「市場神秘主義」としてop-edで批判しているが、やはり政府の役割にもう一工夫欲しいところである。