岩本康志氏の内外価格差論

最近、拙ブログで生産性と為替の関係について書いたが(ここここ)、岩本康志氏も、25日のブログエントリ購買力平価を取り上げていた。そこでは、購買力平価が最近円高傾向にあったことについて、「原因の第1は日本の物価上昇率が低いことにある」と述べている。
岩本氏はまた、昨年3月のエントリで、

1999年から2005年の指数*1の低下は,特定の財に起こったのではなく,広い範囲に共通して見られたといえる。個別財での問題を解決して内外価格差を解消したような動きではないような印象を受ける。

内外価格差の解消・詳論 ( 経済学 ) - 岩本康志のブログ - Yahoo!ブログ

という分析結果を示している。さらに、昨年1月のエントリでは、

かりに内外価格差の縮小の原因が非貿易財産業の生産性の上昇ではなく,当該産業の賃金の低下が原因であって,さらにそれが賃金格差を生じさせたのならば,これは非常に重大な意味をもつ。時計の針を逆に戻せば,生産性の低下なしに格差を縮小できることになるからである。

内外価格差の解消がもたらしたもの ( 経済学 ) - 岩本康志のブログ - Yahoo!ブログ

と書いている。


ここまで来れば、デフレこそが問題、だからそれを逆転させるリフレ政策が望ましい、というところまであと一歩、という気がするが、残念ながらその方向にはいかず、

ひとつの可能性は,規制緩和で日本の生産性が上昇したものの,外国の生産性も上昇したというものである。いま関心をもっているのは,OECD諸国での相対的な日本の地位である。例えば,わが国の情報通信業の生産性が伸びたとしても,外国ではそれ以上に伸びたならば,相対的な地位は低下してしまう。したがって,生産性の動向は国際比較のなかで議論するべきである。規制緩和を進めているのは,日本だけではない。外国も同様に取り組んでいる。
また,日本の規制緩和の取り組みが甘かったかもしれない。購買力平価調査で得られた財別のデータでは,日本の食料品の価格が非常に高い。素直に考えれば,生産性の低い農業部門が高関税で守られている現状にメスを入れることが最初にされるべきであるが,農業改革の進捗ははかばかしくない。
バラッサ=サミュエルソン効果*2によって内外価格差が縮小したとすれば,わが国の貿易財産業の生産性上昇率と非貿易財産業の生産性成長率の差が,外国のそれと比べて小さかったことになる。

内外価格差の解消がもたらしたもの ( 経済学 ) - 岩本康志のブログ - Yahoo!ブログ

と主張している。つまり、あくまでも規制緩和を推し進めて、外国を上回る生産性上昇を目指すべし、とのことだ。


ただ、2月のエントリでは

生産性成長率がこれ(引用者注:日本の労働力人口成長率がOECD平均に比べ1ポイント低いこと)を相殺するほど高くなければ,OECD諸国平均の実質成長率を達成することは難しい。諸外国を凌駕する生産性向上の目算がたたなければ,OECD諸国並みの実質成長率を目指すことは並大抵のことではないどころか,無謀ないし無意味である。
・・・
生産性の向上と賃金の向上の関係には注意が必要だ。労働者の技能向上で労働生産性が高まれば賃金は上昇するが,全要素生産性の上昇(体化されない技術進歩)は生産されるサービス価格を低下させ,経済全体に広く薄く恩恵が及ぶが,当該産業の賃金向上には貢献しない。成長戦略による生産性の向上では問題産業の低賃金は改善しないかもしれない。

成長戦略の描き方 ( 経済学 ) - 岩本康志のブログ - Yahoo!ブログ

とも書いており、話がそう簡単ではないことも十分に認識されていると思われるのだが…。ミクロ的な生産性の上昇を目指す政策に限界があるとすれば、マクロ経済政策の出番だと思うのだが、いかがだろうか。

*1:日本の内外価格差指数(comparative price level=購買力平価と為替レートの比、OECD全体を100に基準化、概念的には実質実効為替レートと同じもの)のこと(注:この用語解説は岩本氏のエントリのものを適宜編集した。以下同様)。

*2:各国の所得水準の差は貿易財の生産性の違いによって主として形成され、経済が成長すると、その国の非貿易財が貿易財よりも割高になるという効果。