プレスコットの財政刺激策反対論

少し前に、メンジー・チンが、「科学を進歩させる」うちに入らない経済学者の意見と断りつつ、面白いことをEconbrowserで書いている。

彼はまず、ケイトー研究所の財政刺激策反対広告を取り上げ、その署名者のうち、プレスコットに注目する。プレスコットが財政刺激策について論じた論説をチンが探してみたところ、取りあえずEast Valley Tribuneに引用された以下の発言しか見つからなかったとのこと。

"I don't know why Obama said all economists agree on [the need for a stimulus bill]," Prescott said. "They don't. If you go down to the third-tier schools, yes, but they're not the people advancing the science."
(拙訳)「なぜオバマがすべての経済学者が[財政刺激策法案の必要性について]賛成していると言ったのか分からない」とプレスコットは述べた。「彼らは皆が賛成しているわけではない。三流大学で意見を募ればそうなるだろうが、それらの人々は科学を進歩させる人々ではない。」


そこでチンは、RBC理論からプレスコットの論理を解き明かそうとする。RBC理論では技術ショックを重視するが、その考え方を敷衍すると、2008年9月以降、我々は技術的退歩を経験していることになる。一つの解釈は、金融システムも技術の一形態であると考え、規制下の銀行システムでは克服することができた情報の非対称性の問題をうまく扱えなくなった、というものである。もう一つの解釈は、技術の成長トレンドが屈折した、というものである。

このRBCの世界では、生産は常に潜在力に一致する(従ってCBOが予測するような潜在GDPは意味を持たない)ので、政府の支出は資源の無駄遣いとなり、非生産的である。また、失業も相対価格の変化や技術成長予測の変化に対応して、常に最適な値になっている。プレスコットが政府刺激策に反対する姿勢は、この世界観からすると筋が通っている。


もう少し仮定を緩め、生産が潜在力と乖離することもあり得ると認めると、以下のような解釈も可能である。

この場合、チン等はGDPギャップはマイナスだと考えているが、実際のGDPギャップはプラスであり、やはり景気刺激策は事態をかえって悪化させる。


日本でいえば、池田信夫氏がこの図で示される考え方に近いことを述べている。

今回の日本のように、アメリカの過剰消費が正常化することによる潜在GDPの低下を「一国ケインズ政策」で埋めることはできない。
・・・
回り道のようでも、1%以下に低下した潜在成長率を高めるイノベーションしか、日本が長期停滞から脱却する方法はない。

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/7738117aa87f8c7440194642e6d31f03

この認識を受けた池田氏の政策提言は、法人税減税である。


ちなみに、チンは別のエントリで、保守派が常に減税を求めることを以下のように皮肉っている。

Budget Surplus? Tax Cut! Budget Deficit? Tax Cut! High Energy Prices? Tax Cut! Deep Recession? More Tax Cuts!
I see a pattern. For some people, the answer to every question is...a tax cut!
(拙訳)財政が黒字化した? 減税だ! 財政が赤字になった? 減税だ! エネルギー価格が高騰した? 減税だ! 景気後退が深刻だ? もっと減税だ!
パターンが読めるね。ある人々にとっては、あらゆる問題に対する解決策は…減税だ!

http://www.econbrowser.com/archives/2009/02/budget_surplus.html


なお、オバマ大統領は、ここで引用したように、就任演説において、危機の前後で人々の生産性や創造性や需要や供給が変わったわけではない、と述べ、上図とは対照的な見方を示している。

Our workers are no less productive than when this crisis began. Our minds are no less inventive, our goods and services no less needed than they were last week or last month or last year. Our capacity remains undiminished.