俺に金を貸したあんたが悪い

以前、今回の金融危機を日本の金融緩和政策に求める風潮を批判したが、欧米のネット界でも、米国に資金を供給したアジア、とりわけ中国に危機の原因の一端を求める風潮が出ている。


一つはNick Roweこのブログエントリ。彼はそこで、次のような簡単なモデルを提示している。
経済において、AとBの2種類の主体を仮定する。主体Bが、自身の資産や金利環境に関わらず貯蓄しようとする場合、不況を避けISバランスを取り戻そうとして中央銀行金利を下げる。Bの対投資の貯蓄超過は、Bにとっては資産となるが、他の主体Aにとっては負債となる。Aは負債の成長を恐れて貯蓄を増やそうとするが、それも不況を招くので、中央銀行はまた金利を下げる。こうして、中央銀行金利を下げ続け、ついにはゼロ金利に至ってしまう。その時には、それまで避け続けてきた不況が不可避のものとなる。また、それまでの低金利によって跳ね上がった資産価格も下がることになるが、それによってAは貯蓄を増やそうとし、不況をかえって深刻化させる。
Roweは、このモデルが米中間でここ数年に起きたことの良い描写になっているとしている。
これについては、コメント欄で“reason”氏が2つの指摘を行なっている。

  1. Aの投資は資産を生み出すのではないか?
  2. 金利効果は実質金利によるが、流動性の罠名目金利の問題なので、インフレが解決策になるのではないか?

1番目の指摘は、資金供給がバブルを生み出すとは限らず、適切に投資すれば良い資産になるだろう、という、こうした論議でよくなされる(そして小生も全面的に賛成する)議論である。
2番目の指摘は、まさにリフレ政策そのものである。

Roweは、(このコメントに直接は答える形ではないが)インフレ懸念によって中国が米国債やドルではなく、米国の実物資産を買うようになれば、それは現下の状況から見て良いこと、とコメント欄に書いている。次のエントリでは、ヒラリー・クリントン国務長官は、中国にもっと米国債を買ってくれというのではなく、逆に、米国債保有を減らしてくれ、と頼むべきではないか、とまで書いている。


また、Economist's Viewが紹介したFTのEconomists' Forumでも、Moritz Schularickというドイツの経済学者(「チャイメリカ」という造語の作者の一人)が、中国ないしアジアの過剰貯蓄が危機の一因になった、と書いている。ただ、Economist's ViewのMark Thomaは、紹介記事の中で以下のようなコメントを付け加えており、やはりそうした見方に否定的である。

...availability of large amounts of liquidity on easy terms in and of itself is not enough for problems to develop. How the liquidity is used is the important factor, and if the proper regulatory safeguards are absent, the liquidity may not be used very wisely (as we now know all too well).

With the proper regulatory apparatus in place, or with financial instruments that truly disperse and reduce risk as promised, the reserve balance insurance polices pursued by developing countries do not have to lead to a financial crisis. Distortions are one thing, a crisis is something else and the mere existence of distortions does not lead, by necessity, to a meltdown of the financial system.
・・・
With the proper regulatory framework in place, the crisis need not have happened, and I can't see how the absence of effective regulatory safeguards is the fault of the polices pursued by countries anxious to protect themselves from a repeat of the Asian crisis.

金融監督の欠如がアジア危機の再来を防ごうとした各国の政策の責任であるという理屈は理解しがたい、という最後の文は皮肉が効いていて面白い。
なお、アジアの資本輸出ではなく金融監督が問題だった、というのは、18日の原田泰氏の日経の経済教室でも強調されていた点である。