昨日、数理物理系出身の経済学者たちにマクロ経済学の真髄を理解しない傾向があるのではないか、という趣旨のことを書いた。そこではichigobbsの「次世代の経済学を考える【行動経済、経済物理、複雑系etc】」スレにかつて小生が書き込んだケインズの言葉を紹介した。
今日は、その経済学と数学・物理学というテーマに関連して*1、同じichigobbsの「経済学の数学って適当すぎねえ?」スレへの小生のかつての書き込みを転記してみる。内容的には、主にサンタフェ研究所について書き込んでいる。
最初はこの本の引用。
複雑系―科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち (新潮文庫)
- 作者: M.ミッチェルワールドロップ,Mitchell M. Waldrop,田中三彦,遠山峻征
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2000/05
- メディア: 文庫
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M.ワールドロップ*2の「複雑系」の第4章では、物理学者と経済学者の対話の様子が活き活きと描かれている。…と書くと、またそんな低級本を引っ張り出して云々*3という突っ込みが入ると思うが、個人的に面白いと思ったので引用しておく。
http://www.ichigobbs.net/cgi/15bbs/economy/0940/19
「そして、公理やら定理やら証明やらがオーバーヘッド・プロジェクターでつぎつぎに映し出されるや、物理学者たちは相手方の数学の腕前にすっかり舌を巻いた。驚嘆し、仰天した。」
「『彼らはできすぎだった』と、ある若い物理学者はいう。『まるで難解な数学にみずから幻惑されているようだった。…たぶん、彼らのIQがもっと低かったら、もっとましなモデルがつくれただろう』」
「実際、物理学はもっとも数学化されている科学だ。しかし、ほとんどのエコノミストが知らなかったのは――そして、知って驚いたのは――物理学者が数学に関してかなり無頓着であるということだった。『彼らは少しの厳密な思考と少しの直観を使い、封筒の裏で少しの計算をする。つまり、彼らの流儀はまったくちがうんだ』と、アローはいう。彼自身その事実を知ってかなり驚いたと回想する。」
次に、サンタフェ研究所の狙いの一つは、物理学者と経済学者の交流にあったのではないか、と指摘した。
>物理の言葉で語ってくれる経済屋が増えたら、経済屋・物理屋の双方に多大な利益があると思う。
>>19の本で描かれた会合およびサンタフェ研究所創立はまさにそれが目的だったんでしょう?
http://www.ichigobbs.net/cgi/15bbs/economy/0940/136
http://www.physics.princeton.edu/www/jh/research/anderson_philip.html *4
でアンダーソンはその会合について"apparently with some success"という微妙な書き方をしているが。
上記の指摘に対し、そこに来た物理学者は第一線ではないだろう、という反論があったので、少なくとも当初の設立準備会合ではそうでもなかった、と指摘。
>素粒子物理や固体物理といったメインストリームの物理を修めた香具師を
>を引き入れてはじめて「社会/経済現象を物理する」になるんだって。だからまさしくアンダーソンやゲルマンを引き入れたんでしょう? そこまでは良かったんだよな。
http://www.ichigobbs.net/cgi/15bbs/economy/0940/143
問題なのはそこまでして作った研究所が複雑系の研究に留まってしまったこと。
それに対し、爺さん達を呼んでも仕方なかろう、という再反論があったので、少なくとも当初は爺さん達だけではなかったと指摘。
>>144
そういう重鎮を集めたということは、当然その人たちを通じて若手・中堅の引き込みも狙ったということでしょう。
実際、>>136のHPで
choosing a group of hard scientists to try to mesh with Arrow's ten economists
とあるように、少なくとも最初の会合ではアンダーソンは選抜隊を連れて行ったみたいよ。
問題の一つは、そういった人たちが(多分)一時的な関わりに留まってしまったことかもね。
(あるいは>>150さんの言うとおり、その人たちが残っても大した成果は得られなかったかもしれないが…)あと、この前後の超伝導ブームでもアンダーソンは理論面で主導的な役割を果たしているので、この時期の彼はまだまだ物理学者としてトップクラスの現役だったと言えると思う。
http://www.ichigobbs.net/cgi/15bbs/economy/0940/153
以上がサンタフェ関係の書き込みだが、それ以外のこのスレへの小生の書き込み(と記憶しているもの)は
野口悠紀雄氏*5もこのテーマについて書いていたのだな。
http://www.ichigobbs.net/cgi/15bbs/economy/0940/122
http://www.noguchi.co.jp/archive/diary/000513.html *6
「経済理論では、数学を過剰といってよいほどに使っている(Mathematics has actually been used in economic theory, perhaps even in an exaggerated manner)。問題は、その使用が、めだった成果をあげていないことだ」
・・・ノイマンがこんなことを言っていたとは知らなかった。
これについては同スレの126さんから
文章全体も面白くてわかりやすいと思った。こういう文章を書ける人が、デフレ肯定などのトンデモを主張するのは、罪な話だよなあ。
という反応をもらった。
また、数学・物理学から離れたところでは、
クルーグマン先生は進化生物学を勉強しろとおっしゃっています。
http://www.ichigobbs.net/cgi/15bbs/economy/0940/130
http://web.mit.edu/krugman/www/evolute.html
ということも書き込んだ。
*1:日本の物理学にとってめでたいことがあった日でもあるし…って、あまり関係ないか。それにしても遅すぎ。20年前に貰ってもおかしくなかった。
*2:原文ではワードロップと書いたが、ここではワールドロップに改めた。
*3:ご存知の方も多いと思うが、この本ではブライアン・アーサーを経済学における収穫逓増の発見者扱いしてクルーグマンを激怒させた。クルーグマンはこんな時系列表まで書いてその怒りを露にしている。その後の関係者間のやり取り(ケネス・アロー御自らクルーグマンをたしなめている)、アーサー自身の反応(クルーグマンがSlate上で攻撃したことからマイクロソフトの逆襲と見做しているのは本気なのか、ギャグなのか?)も面白い。まあ、収穫逓増はクルーグマンの主要な業績である貿易理論や空間理論の一つの根幹であるし、芸能人は歯が命、学者はアイディアが命だから、怒るのは無理ないのかもしれない。
なお、アーサーが唱えていたロックイン仮説はその後の旗色は必ずしも良くないようだ。それについては、ここやここの小生の「暇人」名でのコメント参照。
*4:原文のリンク先が無効になっていたので、現在有効なリンク先に改めた。
*5:原文ではいちご内の通称(蔑称?)を用いていたのを改めた。
*6:残念ながら現在はリンク切れ。