売買高アルファ

というNBER論文が上がっているungated(SSRN)版)。原題は「Trading Volume Alpha」で、著者はRuslan Goyenko(マギル大)、Bryan T. Kelly(イェール大)、Tobias J. Moskowitz(同)、Yinan Su(ジョンズホプキンズ大)、Chao Zhang(香港科技大)。
以下はその要旨。

Portfolio optimization focuses on risk and return prediction, yet implementation costs critically matter. Predicting trading costs is challenging because costs depend on trade size and trader identity, thus impeding a generic solution. We focus on a component of trading costs that applies universally – trading volume. Individual stock trading volume is highly predictable, especially with machine learning. We model the economic benefits of predicting volume through a portfolio framework that trades off tracking error versus net-of-cost performance – translating volume prediction into net-of-cost alpha. The economic benefits of predicting individual stock volume are as large as those from stock return predictability.
(拙訳)
ポートフォリオの最適化はリスクとリターンの予測に焦点を当てているが、実行コストは極めて重要である。コストは取引のサイズと取引者の身元に依存するため、取引コストを予測するのは難しく、一般解は求められない。我々は、売買高という広く応用が利く取引コストの構成要素に焦点を当てた。個別株式の売買高は予測可能性が高く、特に機械学習を用いた場合はそうである。我々は、売買高を予測することの経済的便益を、トラッキングエラーとコスト差し引き後のパフォーマンスとのトレードオフのあるポートフォリオの枠組みを通じてモデル化し、売買高の予測をコスト差し引き後のアルファに落とし込んだ。個別株式の売買高を予測する経済的便益は、株式のリターンの予測可能性の経済的便益と同じくらい大きい。

本文では取引コストとして価格インパクトコストに焦点を当てているが、それは参加率(取引サイズを日次売買高で割ったもの)について線形だが、売買高については非線形となる。売買高が小さいとインパクトコストは大きくなり、売買高がゼロに近いと無限大に近付く。一方、売買高が大きいとインパクトコストは小さくなるが、ゼロ下限がある。そのため、売買高の変化の予測は、売買高が小さい時に経済的便益への影響が大きくなり、売買高の予測誤差のコストに非対称性が生じる。
それに対し、トラッキングエラー(取引しないことによる機会コスト)は売買高に依存しない。そのため、両者を組み合わせた最適化においては、売買高を過大推計することのペナルティが過小推計よりも大きくなる、という。