窓口貸出の烙印は癒せるのか? ある実験的調査

というNY連銀論文をMostly Economicsが紹介している。原題は「Can Discount Window Stigma Be Cured? An Experimental Investigation」で、著者はOlivier Armantier(NY連銀)、Charles Holt(バージニア大)。
以下はその要旨。

A core responsibility of a central bank is to ensure financial stability by acting as the “lender of last resort” through its Discount Window. The Discount Window, however, has not been effective because its usage is stigmatized. In this paper, we study experimentally how such stigma can be cured. We find that, once a Discount Window facility is stigmatized, removing stigma is difficult. This result is consistent with the Federal Reserve’s experiences which have been unsuccessful at removing the stigma associated with its Discount Window.
(拙訳)
中銀の中核的な責任は、窓口貸出を通じて「最後の貸し手」として行動することにより金融安定性を保証することである。しかし、窓口貸出は、利用すると烙印を押されることから、効果を発揮してこなかった。本稿で我々は、そうした烙印を癒す方法を実験的に調べる。いったん窓口貸出制度が烙印の対象となると、烙印を除去するのは難しいことを我々は見い出した。この結果は、自らの窓口貸出に関連する烙印を除去することに失敗してきたFRBの経験と整合的である。

著者たちは以前にも窓口貸出と烙印に関する研究室実験を行った論文を出しているが、今回の実験はそれを踏まえつつ、烙印の修復に焦点を当てたもののようである。結論部では結局、この烙印は修復が難しいので、あまりにも烙印と結び付いている窓口貸出は諦めて、別の貸出制度を烙印がつかないように工夫して運用してはどうか、と提案している。その一例が常設レポ*1で、著者たちは以前の研究を基に、烙印を防ぐためにランダムな借り入れを義務化してはどうか、と提言している。

ちなみにこの烙印問題は、欧州ではさほど深刻ではない、ということをかつてバーナンキ指摘しているFRBの烙印問題への取り組みについては、東大の服部孝洋氏がこちらのレポートでまとめている。
日本については、専修大の朝倉健男氏のこちらの論文(ダウンロード注意)ではスティグマが存在しないとしているが、東大の福田慎一氏は、こちらの論文で、コールレートの日中の最高値が公定歩合(基準貸出利率)を上回ったことをスティグマの発生と位置付けている。