ユニバーサルポートフォリオ縮減

というNBER論文が上がっているungated(SSRN)版)。原題は「Universal Portfolio Shrinkage」で、著者はBryan T. Kelly(イェール大)、Semyon Malamud(Swiss Finance Institute*1)、Mohammad Pourmohammadi(ジュネーブ大)、Fabio Trojani(同)。
以下はその要旨。

We introduce a novel shrinkage methodology for building optimal portfolios in environments of high complexity, where the number of assets is comparable to or larger than the number of observations. Our universal portfolio shrinkage approximator (UPSA) is given in closed form, is easy to implement, and improves upon existing shrinkage methods. It exhibits an explicit two-fund separation, complementing the Markowitz portfolio with an optimal complexity correction. UPSA does not annihilate the low-variance principal components (PCs) of returns; instead, it optimally reweighs them and produces a stochastic discount factor that substantially improves on its feasible PC-sparse counterparts.
(拙訳)
資産の数が観測数と同等、もしくはより大きい複雑な環境下で最適ポートフォリオを構築する新たな縮減法を我々は紹介する。我々のユニバーサルポートフォリオ縮減近似(UPSA)は閉形式で与えられ、導入が容易で、既存の縮減法を改善したものとなっている。その方法では明示的な2ファンド分離が示され、マーコビッツポートフォリオ*2を最適な複雑性の修正により補完する*3。UPSAは分散の小さなリターンの主成分を全部ゼロとすることはせず、それらを最適な形で再加重し、主成分が疎な対応する実現可能なストカスティックディスカウントファクターを顕著に改善する。

本文の冒頭では、マーコビッツの古典的なポートフォリオがインサンプルではパフォーマンスが良いのにアウトオブサンプルでは悪くなるのは、パラメータの数が観測数を超えるという推計の複雑性により大数の法則が成立しなくなるため、と指摘している*4。その問題に対処するために縮減法が提唱されてきたが、既存の縮減法は推計誤差や共分散行列のような統計的な指標を対象にしてきたとの由。それに対し今回の手法では、投資家の興味の対象であるストカスティックディスカウントファクターのアウトオブサンプルのパフォーマンスを対象にしたという。
具体的には、マーコビッツポートフォリオは主成分のポートフォリオで分解できるが、APT*5を契機に、主要な主成分だけがストカスティックディスカウントファクターに入るべきで、分散の小さな主成分は無視してよい、という議論が広まった。しかしそれは誤りであり、分散の小さな主成分を利用した再加重により最適ポートフォリオが得られる、とのことである。

*1:cf. Swiss Finance Institute - Wikipedia

*2:cf. 資産価格の理論:私的概論/(1)平均−分散法 - himaginary’s diary

*3:2ファンド分離というと資産価格の理論:私的概論/(2)分離定理 - himaginary’s diaryで紹介した分離定理が連想されるが、そちらはマーコビッツポートフォリオ自体を分離したのに対し、今回の論文ではマーコビッツポートフォリオに別なポートフォリオを付加する形になっている。即ち、リスクプレミアムが一定で完全に定常的かつ独立同一分布の環境においても、複雑性によって従来の効率的ポートフォリオ理論からの体系的な乖離が生じ、それを修正したものがUPSA効率的ポートフォリオになるとの由。

*4:その点についてこちらの論文を参照している。これは、リターン予測における複雑性の利点 - himaginary’s diaryで紹介した論文を発展させたものである。

*5:cf. 資産価格の理論:私的概論/(6)APT - himaginary’s diary