付録B 効率的フロンティアへのリスクフリーレートの導入によるCAPMの導出
ここでは、昨日のエントリ(付録A)の道具立てのもとで、第5回エントリで紹介したCAPMを導出する。具体的には、ポートフォリオの構成銘柄の一つを無リスク資産に置き換える。その時、その「銘柄」の期待リターンはリスクフリーレートである。
付録Aの(A-2)式で、w’= ( wf , wr’ ) とおく。ただし、wfは無リスク資産のウエイト、wr はリスク資産のポートフォリオのウェイトとする。また、e’= ( rf , er’ ) とおく。
この時、w は無リスク資産を含んだ効率的ポートフォリオなので、リスク資産の効率的フロンティアにリスクフリーレートから引いた接線になる(即ち、無リスク資産を含む場合は効率的フロンティアは直線になる)。
その場合のリスク資産のポートフォリオwr は必ずその接点になる。これを接点ポートフォリオ(tangent portfolio)という。
そのことは、他のいかなるリスク資産と無リスク資産の組み合わせも直線の下側に来ることから明らか。
定義より、リスクフリー資産の分散は0だから
・・・(B-1)
すると(A-2)式の第1行は
∴ ・・・(B-2)
また、(A-2)式の第 i 行(i > 1)は
・・・(B-3)
ここで、左辺第1項は第i銘柄のリターンと接点ポートフォリオのリターンの共分散にほかならないから、βiと接点ポートフォリオの分散σm2を用いて表わすと
・・・(B-4)
また
、
(em=接点ポートフォリオの期待リターン)より、(B-4)式の両辺を全銘柄についてウェイトを掛けて合計すると、
・・・(B-5)
(B-2)(B-5)より
・・・(B-6a)
・・・(B-6b)
(B-4)(B-6)より
・・・(B-7)
つまり、危険資産のリスクフリーレートからの超過リターンは、接点ポートフォリオの超過リターンに、比例係数βiで比例する。
なお、ここまではCAPMではなく、マーコビッツのM-V法とトービンの分離定理から導かれる(Sharpe(1964)の議論も基本的にはここまで)。
CAPMは、ここまでの理論展開をした上で、皆が同じ接点ポートフォリオを持ちたがることを仮定すれば、危険資産の需給の均衡のもとでは、この接点ポートフォリオは市場ポートフォリオに他ならない、ということを述べる均衡モデルである。
なお、以上から分かるように、(B-7)式は接点ポートフォリオについて必ず成り立つ恒等式なので、その場合、危険資産は必ず下図の直線上に乗る。
一般に、実務家の間では、時系列データで
ri-rf=αi+βi(rm-rf) +εi
といった回帰を行なってβiと同時にαiを推定し、そのαiが正だから銘柄iは割高、負だから割安という議論がなされる。
しかし、rmが接点ポートフォリオならばαiは恒等的に0になるので、実務家の上記の使用法は、実は(本人の意図に反して)個別銘柄のリターンの高低を見ているのではなく、ベンチマークとして採用したrmがどれだけ接点ポートフォリオに近いかを見ていることになる。(実際、CAPMの検証はそうした形で行なわれる)
なお、期待リターンやリターンの分散を、単純に過去の時系列のサンプル平均やサンプル分散としても、この付録Bの式はそのまま成立することに注意。
[2023/1/13:Texのhspace引数をmm単位指定するなどのフォーマット修正を実施]