資産価格の理論:私的概論/(6)APT

<中心的な流れ(6)>

○裁定価格理論(APT=Arbitrage Pricing Theory)

 スティーブン・ロス(Stephen A. Ross “The Arbitrage Theory of Capital Asset Pricing”、1976)

 前提:

  • 無裁定条件(資金0、リスク0ならリターンも0)
  • 投資家はAPTの前提のファクターモデルについて同じ期待を持つ
  • 市場の完全性

 CAPMと異なり以下の前提が不要

 不要となる前提:

  • 投資家はリスク回避型で期待効用を最大化
  • 投資家はリターンの平均、分散をベースにポートフォリオを選択
  • 投資家はすべて単一期間の投資を行なう
  • リスクフリーレートで貸し借りが制約なく行なえる

 →個別資産のリターンを説明する要因として市場ポートフォリオを導入する必要が無い

 以下の形のモデルを前提とする。(変数の上の山形は確率変数であることを示す)
   \hat{r_i} = e_i + b_{i1}\hat{F_1} + b_{i2}\hat{F_2} + \cdots+ b_{im}\hat{F_m} +\epsilon_i   但し e_i = E(\hat{r_i})
      or
   \hat{\vec{r}} = \vec{e} + \text{B}\hat{\vec{f}} + \epsilon  (行列形式の表現)
 即ち、確率変数であるリターンは、期待リターンと、銘柄間に共通なファクターFjおよびそれに係る銘柄ごとの係数bij(Factor Sensitivity)を足しあわせたもの、およびノイズ項から成り立つものとする。ファクターおよびノイズの期待値は0である。
 ここで、以下の条件を満たす裁定ポートフォリオ(Arbitrage Portfolio)w =(w1,w2,・・・,wn)’を考える。
   w’u =0       u =(1,1,・・・,1)’
   w’B = 0       B=(bij) i=1〜n、j=1〜m
 1番目の条件は、投入資金がゼロであることを示す。
 2番目の条件は、ファクターリターンがゼロであることを示す。上記のAPTモデルでは、リターンの不確実性は確率変数であるファクターとノイズから生じているが、ノイズについては充分な数の銘柄をポートフォリオに組み入れれば、分散化されて無視できるものとする(cf.シングルファクターモデル、アンシステマティックリスク)。すると、ファクターに対するエクスポージャーを無くしたことにより、このポートフォリオにはリスクが存在しない。ゆえに、前提の無裁定条件より
   w’r = 0
また、この時w’r = w’e であるから
   w’e = 0
あるいは、
   Aw = 0   但しA = ( u B e )’
これでw がtrivialでない解を持つためには
   e = λ0u + Bλ
      or
   E(\hat{r_i}) =\lambda_0 + b_{i1}\lambda_1 + b_{i2}\lambda_2 +\cdots+ b_{im}\lambda_m
この式がAPTモデルの帰結である。
ただ、APTモデルではCAPMと異なりファクターを特定していない(APTの弱点!?)。