セグメント化された裁定

というNBER論文が上がっている昨年11月時点のSSRN版今年5月のスライド資料)。原題は「Segmented Arbitrage」で、著者はEmil Siriwardane(ハーバード大)、Adi Sunderam(同)、Jonathan L. Wallen(スタンフォード大)。
以下はその要旨。

We use arbitrage activity in equity, fixed income, and foreign exchange markets to characterize the frictions and constraints facing intermediaries. The average pairwise correlation between the 29 arbitrage spreads that we study is 21%. These low correlations are inconsistent with canonical intermediary asset pricing models. We show that at least two types of segmentation drive arbitrage dynamics. First, funding is segmented—certain trades rely on specific funding sources, making their arbitrage spreads sensitive to localized funding shocks. Second, balance sheets are segmented—intermediaries specialize in certain trades, so arbitrage spreads are sensitive to idiosyncratic balance sheet shocks.
(拙訳)
我々は、株式、債券、外国為替市場での裁定行動を利用して、仲介機関が直面する摩擦と制約の特性を調べた。我々が調べた29の裁定スプレッドのペアの相関は平均して21%であった。こうした低い相関は、包括的な仲介部門が単一の制約に直面しつつすべての価格を設定するというモデルとは整合的ではない。我々は、少なくとも2種類のセグメンテーションが裁定の動学を駆動することを示す。第一に、資金調達がセグメント化されている。ある種の取引は特定の資金源に依存しているため、その裁定スプレッドは局所的な資金調達ショックに敏感である。第二に、バランスシートがセグメント化されている。仲介機関はある種の取引に専門化されているため、裁定スプレッドは固有のバランスシートショックに敏感である。

スライド資料では、ドル円*1国債のインフレスワップ社債国債のスプレッド*2、の各裁定スプレッドを以下のように描画して、LTCM、2001年の景気後退、リーマンショック、コロナ禍のような危機時においてもスパイクが立つか立たないかで差が生じていることを指摘している。

*1:ungated版によればカバー付き金利平価(CIP)との裁定。

*2:ungated版によれば信用スプレッドとCDSスプレッドとの裁定。