コント:ポール君とラリー君――賃料と賃金をどうみるかの巻

少し前にここここクルーグマンの連ツイを紹介したが、そこで示された彼のインフレへの見方をまとめたNYT論説にサマーズが猛反発し、ツイッターで以下のように反駁した

I am disappointed by the tendentious & selective analysis of team transitory acolytes who keep finding new arguments for their conclusion that inflation is @ to subside & policy should be dovish. I focus on @paulkrugman because he is so clear & smart. 1/N
nytimes.com
Opinion | Wonking Out: What’s Really Happening to Inflation?
@paulkrugman now focuses on housing and the well-known point that government indices lag private sector indices of newly leased residences. Therefore, he argues one should not worry about projected high inflation rates because they are driven by housing. 2/N
@paulkrugman would be more convincing if he had focused on the housing distortion when it was holding overall inflation down in 2021. He would be more credible if he acknowledged that new rental price inflation of his cited measure (Zillow) is still running at 6 percent. 3/N
He would also be more credible if he pointed out that lags apart there was a large gap between the level of residential prices measured by the private sector and government. These have historically moved together, and I’d guess the official indices will catch up. 4/N
@paulkrugman would also be more convincing if he acknowledged that dropping out the median observation in a group of observations does not change its median. 5/N
In the @nytimes op-ed, @paulkrugman then shifts his attention to the labor market as a guide to underlying inflation. I agree that wages are a kind of super core measure of inflation. 6/N
Paul focuses on average hourly earnings in the employment survey. He neglects to point out that it is badly flawed by composition effects. Nor does he observe that better indices like the Wage Growth Tracker and the ECI suggest a much less benign picture of wage inflation. 7/N
Having stressed the distinction between new and continuing prices in the context of housing where it works to allay inflation concerns, Paul neglects it in the context of wage inflation. 8/N
The gap between wage gains for those changing jobs and those staying in jobs is at record levels. This suggests accelerating wage inflation. 9/N
Given dismal productivity growth, likely caused by quiet quitting, wage inflation will have to come down significantly if sustained months near 2 percent inflation is to be attained. I do not understand the basis for believing this is likely without a meaningful recession. 10/10
(拙訳)
私は、“インフレは一時的だよ”チームの侍者たちの偏向した選択的な分析に失望している。彼らは、インフレは間もなく沈静化し、政策はハト派的であるべき、という自分たちの結論を支持する新たな議論を次々と見つけ出す。私はポール・クルーグマンに焦点を当てる。というのは彼は非常に明確で賢いからである。
www.nytimes.com
今のポール・クルーグマンは、住宅、ならびに、政府の指数は新規賃貸住宅の民間部門の指数に遅れを取るという周知の点に力点を置いている。従って、今後予想される高インフレは、住宅によって押し上げられるものであるため、懸念すべきではない、と彼は論じる。
2021年に住宅の歪みが全体のインフレを抑えていた時にその話に焦点を当てていたならば、ポール・クルーグマンの話はもっと説得力を持つだろう。新規賃貸価格のインフレについて彼が引用した指標(ジロー)が未だに6%台で推移していることを認めたならば、彼の話はもっと信憑性を持つだろう。

また、ラグを別にしても、民間部門と政府が測定する賃貸価格の水準に大きな差があったことを指摘していたら、彼の信憑性は増しただろう。両者は過去に一緒に動いており、公的指数は追いついていくものと私は推測する。

ポール・クルーグマンはまた、観測値の集合から中央値の観測値を落としても集合の中央値は変わらない、ということを認めていたらもっと説得的だったろう。
ニューヨークタイムズの論説でポール・クルーグマンは、次いで基調インフレの指標としての労働市場に話を移す。賃金が一種の超コアインフレ指標であることに私は同意する。
ポールは雇用調査の平均時給に焦点を当てる。それが構成効果によって大いなる欠陥を抱えていることを指摘することを彼は怠っている。Wage Growth Tracker*1や雇用コスト指数のようなより優れた指標が賃金インフレについてそれほどよろしくない図を描いていることも彼は見ていない。

住宅の話では、インフレ懸念を緩和する形で働く新規価格と継続価格の違いについて強調したのに、賃金インフレの話では、ポールはそれを無視している。
転職する人としない人が得る賃金上昇の差は記録的な水準に達している。このことは加速する賃金インフレを示唆している。

静かなる退職によって生じていると思われる生産性成長の低迷に鑑みると、2%インフレを継続して達成するためには賃金インフレは顕著に下がらなくてはならないだろう。これが大きな景気後退なしに起きる可能性が高いと信じる根拠が私には理解できない。


このサマーズの連ツイに対しクルーグマンは、こちらのツイートで、昨年自分が間違っていたことを改めて認めるとともに、賃料が未だ6%で上がっていると考える不動産関係者はいないのでは、と述べている。また、静かなる退職ではなく実際の退職が――人の出入りに伴う混乱により――生産性の低下をもたらしているのではないか、というAdam Ozimekのツイートリツイートしている*2。さらにこちらのツイートでは、今の新規物件の賃料インフレは3%という数字を示したゴールドマンサックスのレポートを基に、中央値インフレが住宅サービスインフレに近いとすればそれも3%になっているし、エネルギーと食料を除いた従来型のコアインフレは過去3か月6%だが、その4割を占める住宅サービスが8%ではなく3%だとすると従来型コアインフレは4%程度ということになる、という試算を示している*3

*1:cf. Wage Growth Tracker - Federal Reserve Bank of Atlanta

*2:Ozimekはそもそも静かなる退職は実際には起きていないのではないか、とも述べている。

*3:この点について、こちらのツイートでは、ゴールドマンも継続賃料については2023年に6%を予測しているではないか、というWSJのNick Timiraosの指摘に反論し、生計費ではなく経済の過熱度合いを測るコアインフレの概念からすると、過去を反映した継続賃料を、現状を示す形に補正する必要があるのだ、という点を改めて強調している。また、こちらのツイートでは、経済統計局とFRBの人が共著した(ここクルーグマンが参照した)論文が使用したデータやCPIの賃料を見ると、賃料全体の2020年初からの累積の伸び(14%台)は新規賃料のそれ(11%台)と3-4%程度しか違わない、ということを指摘したOzimekのツイートに反応し、それが本当ならば住宅サービスの今後のインフレは限定的ということになるし、いずれにしろ賃料インフレはコロナ禍前に戻りつつある(一時的かもしれないが新規賃料はむしろ下がっている)ので、労働統計局のデータは経済の過熱を示してはいない、と述べている。