マンキューの過剰な金融引き締めへの懸念


ここで紹介したエントリを敷衍する形で、マンキューがFRBの引き締め過ぎへの懸念をまとめたエントリを起こしている。以下はその概要。

  • まず、以下の2点についてはタカ派に同意。
    1. 金融財政政策の担当者が最近のインフレ高騰に一部責任があるというのには同意。マンキュー自身、2021年2月のNYT論説で経済過熱について警告していた。
    2. それなりの金融引き締めが必要ということにも同意。特に財政政策の担当者が総需要を減らす手助けをほぼ行っていない状況ではそう。学生ローンの免除は逆方向だし、いわゆるインフレ抑制法も役に立たない政治的煙幕に過ぎない
  • 問題は、どの程度の金融引き締めが必要か、ということ。この問題は難しく、その答えを確かに知っている、という人は自分もしくは他人に対して正直でない。これが難しい理由は、金融政策が顕著なラグを以って効くからである。最近のFRBの引き締めがインフレにまだ効果をあまり発揮していないことに驚きはなく、FRBはもっと大幅に引き締める必要がある、と考えるべき理由はない。FRBは、引き締め開始をインフレが顕在化するまで待った、という過ちを犯した。引き締めサイクルの終了をインフレが目標に戻るまで待つ、というのも同様の間違いである。
  • テイラールールはこの問題をカリブレートする一つのやり方を示している。この経験則によれば、インフレの1パーセンテージポイント上昇ごとに実質金利は0.5パーセンテージポイント上昇する必要がある。直近に生じた、ならびに近い将来に予想される金融政策の変化を織り込んだ5年TIPSの利回りは、過去1年に330ベーシスポイント上昇した。テイラールールによれば、インフレが6.6パーセンテージポイント上昇したならばこれは適切となる。実際はどうか?
  • その答えはどのインフレ指標を見るかによる。CPIを見れば答えはイエスで、インフレ高騰はそうした大幅な金融引き締めを正当化する。しかしそのインフレ高騰の一部は一時的な供給サイドのイベントに起因している(“インフレは一時的だよ”チームは間違っていたが、完全に間違っていたわけではない)。賃金インフレの上昇は3パーセンテージポイントに留まる*1。現時点のインフレ圧力の指針と考えられるこの指標によれば、金融引き締めはもっと小幅で良かった。
  • それに関連した問題は、r*とも呼ばれる正常な実質金利は、FRBが以前考えていたよりも高いのか、という問題である。その可能性はあるが、最近のブルッキングス論文*2で説明したように、実質金利の低下を説明する長期的な構造変化が生じているのではないか、という考えを自分は取っている。そうした力は今後もr*を低く抑えるだろう。
  • 自分が注目しているもう一つのデータ系列は、最近流行らないが、マネーサプライ*3である。M2はインフレの大幅上昇に先立って急増した。ジェレミー・シーゲル(Jeremy Siegel)のようにマネーサプライをウォッチしている経済学者は、インフレ高騰を真っ先に警告した。しかし過去1年のM2増加は3.1%に留まる。
  • 金融引き締めが世界中で起きているというのがもう一つの考慮すべき要因。テイラールールのような標準的な金融ルールは、国際的な連関を明示的に織り込んでいないが、そうすべきかもしれない。来たるべき米経済の収縮は、部分的には海外中銀のせいである。それがどの程度かを言うのは難しいが。
  • ということで、自分がFRB理事の一人ならば、徐々にブレーキを緩めることを推奨するだろう。つまり次回の決定局面で、引き上げ幅を例えば50ベーシスと75ベーシスのどちらにするかで議論になったら、小幅な方を選べ、ということだ。
  • 現時点では景気後退はほぼ確実と思われるが、その一因は、FRBが以前の見誤りにより金融政策をあまりにも長くあまりにも緩和的にしたためである。景気後退を必要以上に深刻化して得るものは何もない。二番目の間違いは最初の間違いを打ち消すのではなく悪化させることになるだろう。

*1:ここでマンキューはサマーズが推奨したWage Growth Trackerを見てサマーズと逆の結論を導き出している。

*2:cf. 低金利時代の政府債務と資本蓄積 - himaginary’s diary

*3:最近はマネーストックと呼称されるが、マンキューがここでマネーサプライと呼んでいるのが敢えて旧名称にこだわっているのかどうかは不明。