資産価格の理論:私的概論/(5)CAPM

<中心的な流れ(5)>

○資本資産評価モデル(CAPM=Capital Asset Pricing Model)

 ウイリアム・シャープ[William Sharpe “Capital Asset Prices: A Theory of Market Equilibrium Under Conditions of Risk”(1964)]


 ここまで紹介した理論(M-V法分離定理シングルインデックスモデルEMH)を統合して、新たな均衡理論を導出

注)ここまで紹介した理論が「如何に銘柄を選択すべきか」という投資家にとっての規範理論(normative theory)だったのに対し、投資家がそのような選択を行なった場合、市場にどのような均衡が現れるかという実証理論(positive theory)*1

 「市場ポートフォリオ」(すべてのリスク資産のポートフォリオ)という概念の導入


 前提:(M-Vの前提+分離定理の前提に加えて)

  • リターンの平均・分散・共分散に関して投資家は同じ期待を持つ
  • 取引コストのような税制、市場の不完全性がない

→ 皆が市場ポートフォリオと同じ比率で危険資産を持つ

→ 期待リターンについて以下の式が成立
   E(ri)-rf = βi [E(rm)-rf]
 下図の直線を資本市場線(CML = Capital Market Line)と呼ぶ。
   

 また、上式の成立により、下図のような関係が成り立つ。
 下図の直線を証券市場線(SML = Security Market Line)と呼ぶ。
   


ブラック: ゼロベータCAPM
(Fisher Black ”Capital Market Equilibrium with Restricted Borrowing”,1972)
 無リスク資産が存在しない場合にCAPMを拡張
 SMLにおいて、rfの代わりに、ベータがゼロになるように構成されたポートフォリオのうち分散が最小のものを使用


○<実務界への影響>

 ベータ革命・・・60年代末からベータ値が広く使われるように
    Chris Wells “The Beta Revolution: Learning to Live with Risk” (1971)
 ERISA =Employee Retirement Income Security Act of 1974・・・Prudent man rule
 アクティブ運用をいくら行なってもマーケットには勝てないとの認識(1970年代後半〜)
 (例:ウエルズ・ファーゴ社分析(1985))・・・インデックスファンドの隆盛


1990年ノーベル賞マーコビッツ、シャープ、ミラー

*1:余談だが、http://d.hatena.ne.jp/kaikaji/20060720のコメント欄で梶先生が変な人に絡まれて困っていたので、「暇人」名で助け舟を出したことがあった。その拙コメントおよびコメントに記したリンク先でこのあたりの話に触れている。