というNBER論文が上がっている(ungated版)。原題は「Is the Electricity Sector a Weak Link in Development?」で、著者はJonathan M. Colmer(バージニア大)、David Lagakos(ボストン大)、Martin Shu(香港中文大)。
以下はその要旨。
This paper asks whether increasing productivity in the electricity sector can yield larger long-run GDP gains than suggested by electricity’s small share of aggregate economic activity. We answer this question using a dynamic multi-sector model in which electricity is a strong complement to other inputs in production. We parameterize the model using our own new measures of electricity-sector TFP across countries. The model predicts modest long-run GDP gains from improving electricity-sector TFP, contrary to the notion that electricity is a weak link. Parameterizations that make electricity a weak link mostly require the electricity sector to be counterfactually large or unproductive.
(拙訳)
本稿では、電力部門における生産性の向上が、経済活動全体に占める電力の小さな割合から示唆されるよりも大きな長期的なGDPの利得をもたらすかどうかを尋ねた。我々はこの質問に、電力が生産における他の投入財の強い補完財となる動学的多部門モデルを用いて回答した。我々は、各国の電力部門のTFPの独自の新たな指標を用いて、モデルをパラメータ化した。モデルの予測によれば、電力が弱い鎖であるという通念に反し、電力部門のTFPの改善による長期的なGDPの利得は小幅である。電力を弱点とするパラメータ化は、電力部門が現実に反するほど大きいか非生産的であることを概ね要求する。
結論部では、低所得国の電力部門のTFPが先進国にそれほど引けを取っていないことを指摘し、そのためにTFPの向上が長期的なGDPの利得につながらない、としている。同時に、それは電力部門が弱い鎖とはなり得ないことを示すものではなく、弱い鎖となるにはまた別のメカニズムが必要なことを示すもの、としている。そうしたメカニズムの候補としては、信頼できない供給による資源の遊休化や、不適切な電力供給が生産過程において設備や生産に与える直接的な毀損を挙げている。
また本文では、電力のTFPの国ごとのバラツキの予測子として最も有意なのは送配電の損失割合で、それをコントロールすると電力のTFPと一人当たりGDPの関係は統計的に有意ではなくなる、としている。
結局のところ、電力の生産性というのは設備を普通に導入すればそれなりのものが得られるわけで、問題なのは生産性よりも安定供給、ということになりそうである。それは経済発展における要因という話だけではなく、災害による電力供給の問題を度々経験している日本でも身近に感じるところであろう。