以前、無料経済とGDPに関するShane GreensteinのDigitopolyエントリを紹介したことがあったが、こちらのエントリ*1でGreensteinが再びそのテーマを取り上げている。そこで彼は、テレビが白黒からカラーに移行した時の経済効果の計測について以下の点を指摘している。
- テレビの物価指数は既存のテレビの価格変化を測るので、以前は不可能と思われた変化の価値を過小評価する。従って、そこには改善は現れない。
- 番組や広告は色が付いたことによってより効果的になる。それで人々がもっとテレビを視聴するようになり、テレビの売り上げは増え、テレビの広告料も増える。だが、広告主がテレビに切り替えることにより、ラジオと新聞の広告料収入は減る。経済全体の広告料は概ね一定なので、GDPへの寄与は主にテレビの売り上げ増分に留まる。
- 広告がより効果的になったことにより、広告された商品の売り上げは増える。しかしそれは、広告されない商品の売り上げの減少でかなりの程度相殺される。
Greensteinに言わせれば、ダイアルアップからブロードバンドへの移行とその後の帯域の拡大や、セルフォンからスマートフォンへの移行についても同様の経済的ロジックが働いたという。
さらにGreensteinは、無料ソフトウエアについて、無料の生産、無料の投入、ならびにその組み合わせの3種類がある、と説明している。無料の生産は、例えばグーグルやフェイスブックなど利用者が無料で利用できるサービスである。無料の投入は、例えばAndroidスマホのメーカーがグーグルから無料で入手するソフトウエアである。その組み合わせとは、例えばオープンソースソフトウエアで、無料で提供されていると同時に、それを投入として様々な生産活動が行われている。
Greensteinは、無料の生産は広告費しかGDPに現れない、という点を計測における問題点として指摘している。また、無料の投入については、そうした無料サービスの多くが政府の補助を起源としているが、社会的便益が計測できないため、公共政策にとって問題になる、とGreensteinは言う。さらにオープンソフトウエアは、多大な経済的価値を生み出しているにも拘らず、やはりその価値が計測されない(企業レベルで言えばライセンスソフトウエアと違って在庫に計上されないので、企業会計にも表れず、どれだけのソフトウエアが存在してどれだけ企業の生産性に貢献しているかが把握できない)というのはGDP計測にとって大きな問題だ、という認識をGreensteinは示している。
*1:初出はIEEE Micro。