マンキューが、スティーブン・ムーア(Stephen Moore)とアーサー・ラッファー(Arthur Laffer)の下記の著書「トランポノミクス(Trumponomics)」の書評をフォーリンアフェアーズに書いている(H/T マンキューブログ)。
Trumponomics: Inside the America First Plan to Revive Our Economy (English Edition)
- 作者: Stephen Moore,Arthur B. Laffer
- 出版社/メーカー: All Points Books
- 発売日: 2018/10/30
- メディア: Kindle版
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以下はその概要。
- 経済学者が本や記事を書く時、3つの声の中から選ぶことになる。
- 一つは教科書的な権威としての声で、経済学者の間の意見の違いや、経済学でまだ分かっていないことがあるのを正直に認めつつも、経済学をなるべく偏りの無い形で紹介し、一般の人々が情報を基にした判断ができるようにする。
- 二つ目は道理を弁えた主唱者としての声で、理性的な人々の間で意見の違いがあることを認めつつも、最新の理論や実証の研究を基に、自分の主張を展開し、立場を決めていない人を説得したり、反対者の意見を突き崩そうとする。
- 三つ目は熱狂的な党派性の声で、学界のコンセンサスやまともな研究は無視し、反対者は間違っていると決め付ける。
- 残念ながら、今回の本を書くに当たってムーアとラッファーは3番目の声を選び、第1章ではボスであるトランプに媚びへつらっている。
- 政策面については、とにかく8年間のオバマの経済政策の逆をやれば良い、と選挙期間中にトランプに進言したことを得意気に第3章で書いている。しかしそれほど間違ったアドバイスは無い。CEA委員長を務めた自分(マンキュー)もオバマよりは右寄りの考えだったし、ムーアとラッファーがそうした考えを持つのは構わない。だが、オバマ政権には著名な経済顧問がひしめいていたのであり、彼らは民主党だったからすべて間違っていた、などと言うことはできない。
- ムーアとラッファーの党派性は主に税水準の問題に根差している。彼らは、税政策がアーサー・オークンのいわゆる平等と効率のトレードオフという困難な問題に直面することを認めておらず、税率を引き下げればラッファー曲線に沿って税収が増える、という見解を示している。ラッファー曲線は経済理論として否定できないが、米国の税率がそれだけ高い水準に達している、と考える経済学者はほとんどいない。むしろ税収最大化水準より低い可能性が高く、平等と効率のトレードオフという大きな問題は依然として存在している。
- ムーアとラッファーは、トランプ減税で米国の成長が3〜6%にまで高まるため、財政赤字は増えない、という昨年12月のトランプの言を引用している。しかし著者たちはその根拠を示していない。CBOや、ロバート・バローとファーマンは、もっと小幅な成長率の上昇(CBOは今後5年で年0.2ポイント、バロー=ファーマンは税制変更が恒久的の場合に今後10年で年0.13ポイント、2025年に予定通り各種条項が廃止される場合は0.04ポイント)を予測している。標準モデルは税制変更の影響を過小評価している、というローマー夫妻の研究もあるので、今後10年で年0.5ポイントという主張は可能だろう。しかし1〜4ポイントの上昇は過大。
- ムーアとラッファーは、国際貿易については大統領に賛成しておらず、著書でも自由貿易を取り下げてはいない。その点は称賛に値する。なお、反グローバル主義はトランプに始まったわけでは無く、大統領就任前のオバマやバーニー・サンダースもそうした姿勢を示したし、ヒラリー・クリントンは民主党の大統領候補になった時に、自らがオバマ政権の国務長官として支持したTPPに反対した。また、中国の知的所有権の問題など、そうした反グローバリズムの主張にも一理ある。
- ムーアとラッファーは、気候変動、社会福祉支出の増大による長期的な財政不均衡、過去半世紀の経済的格差の拡大、など多くの問題に沈黙している。