ガマの油の経済学

マンキューが、スティーブン・ムーア(Stephen Moore)とアーサー・ラッファー(Arthur Laffer)の下記の著書「トランポノミクス(Trumponomics)」の書評をフォーリンアフェアーズに書いている(H/T マンキューブログ)。

Trumponomics: Inside the America First Plan to Revive Our Economy (English Edition)

Trumponomics: Inside the America First Plan to Revive Our Economy (English Edition)

同書評記事は「Snake-Oil Economics/The Bad Math Behind Trump’s Policies(インチキ経済学/トランプ政策の背後の悪しき数学)」と題されており、かなり手厳しい批判になっている。
以下はその概要。

  • 経済学者が本や記事を書く時、3つの声の中から選ぶことになる。
    1. 一つは教科書的な権威としての声で、経済学者の間の意見の違いや、経済学でまだ分かっていないことがあるのを正直に認めつつも、経済学をなるべく偏りの無い形で紹介し、一般の人々が情報を基にした判断ができるようにする。
    2. 二つ目は道理を弁えた主唱者としての声で、理性的な人々の間で意見の違いがあることを認めつつも、最新の理論や実証の研究を基に、自分の主張を展開し、立場を決めていない人を説得したり、反対者の意見を突き崩そうとする。
    3. 三つ目は熱狂的な党派性の声で、学界のコンセンサスやまともな研究は無視し、反対者は間違っていると決め付ける。
  • 残念ながら、今回の本を書くに当たってムーアとラッファーは3番目の声を選び、第1章ではボスであるトランプに媚びへつらっている。
  • 政策面については、とにかく8年間のオバマの経済政策の逆をやれば良い、と選挙期間中にトランプに進言したことを得意気に第3章で書いている。しかしそれほど間違ったアドバイスは無い。CEA委員長を務めた自分(マンキュー)もオバマよりは右寄りの考えだったし、ムーアとラッファーがそうした考えを持つのは構わない。だが、オバマ政権には著名な経済顧問がひしめいていたのであり、彼らは民主党だったからすべて間違っていた、などと言うことはできない。
  • ムーアとラッファーの党派性は主に税水準の問題に根差している。彼らは、税政策がアーサー・オークンのいわゆる平等と効率のトレードオフという困難な問題に直面することを認めておらず、税率を引き下げればラッファー曲線に沿って税収が増える、という見解を示している。ラッファー曲線は経済理論として否定できないが、米国の税率がそれだけ高い水準に達している、と考える経済学者はほとんどいない。むしろ税収最大化水準より低い可能性が高く、平等と効率のトレードオフという大きな問題は依然として存在している。
  • ムーアとラッファーは、トランプ減税で米国の成長が3〜6%にまで高まるため、財政赤字は増えない、という昨年12月のトランプの言を引用している。しかし著者たちはその根拠を示していない。CBOや、ロバート・バローとファーマンは、もっと小幅な成長率の上昇(CBOは今後5年で年0.2ポイント、バロー=ファーマンは税制変更が恒久的の場合に今後10年で年0.13ポイント、2025年に予定通り各種条項が廃止される場合は0.04ポイント)を予測している。標準モデルは税制変更の影響を過小評価している、というローマー夫妻の研究もあるので、今後10年で年0.5ポイントという主張は可能だろう。しかし1〜4ポイントの上昇は過大。
  • ムーアとラッファーは、気候変動、社会福祉支出の増大による長期的な財政不均衡、過去半世紀の経済的格差の拡大、など多くの問題に沈黙している。