マイナス名目金利と銀行業

と題したブログエントリ(原題は「Negative Nominal Interest Rates and Banking」)の冒頭でCecchetti=Schoenholtzが、ドラギECB総裁の以下の言葉を引用している

“By and large our negative interest-rate policies have been a success. We haven’t seen the distortions that people were foreseeing. We haven’t seen bank profitability going down; in fact, it is going up.” Mario Draghi, Comments at the Peterson Institute, Washington D.C., October 12, 2017. (at 36 minutes of the Session on Monetary Policy)
(拙訳)
「マイナス金利政策は概して成功だった。人々が予見したような歪みは発生しなかった。銀行の収益性は低下せず、むしろ上昇している。」 マリオ・ドラギ、ワシントンDCのピーターソン研究所でのコメント、2017年10月12日(金融政策セッションの36分目)

Cecchetti=Schoenholtz自身も以下のように書いて、ドラギの評価を肯っている。

We can readily verify that bank profitability is unaffected by the ECB’s negative interest rate policy. Moreover, euro-area real growth has averaged nearly 2 percent over the past five years so, when it comes to the big picture, the ECB’s policy has been a success. Yet, bank lending has risen substantially less than nominal GDP, consistent with some weakening of the bank lending channel at negative rates.
(拙訳)
銀行の収益性がECBのマイナス金利政策によって影響されなかったことは容易に確認できる。また、ユーロ圏の過去5年の平均実質成長率は2%近くになっているため、全体的にはECBの政策は成功だった。しかし、銀行融資の伸び率は名目GDPの伸び率よりかなり小さく、そのことはマイナス金利で銀行融資経路が幾ばくか弱まったことと整合的である。


収益性に影響が無かったことに関してCecchetti=Schoenholtzは、以前本ブログで紹介したマイナス金利に関する研究を根拠に挙げている。その際、超過準備に支払われる限界金利はマイナスにしたものの平均金利はプラスに維持した日銀とは対照的に、ECBは超過準備に支払われる金利すべてをマイナスにしたことを注記している(日銀のやり方は、すべてにマイナス金利を適用した上で収益への悪影響を相殺するために補助金を一括して支払う方法として解釈できる、とも書いている)。


銀行融資が伸びなかったことに関しては、スペインの銀行に関する研究や、資金調達を預金に頼っている銀行ほど(政策の目論見通り)リスクを取るようになったものの、融資の増加はむしろ小さかった、というECBの研究を引いている。また、ユーロ圏の融資総量の対GDP比率が、2009-10年の106%から2018年第1四半期の89.7%まで低下し続けた、という数字も引いている(2013年以降の融資総量は5%増えたが、名目GDPは15%増えたとの由。ただし、非銀行の融資が増えたため、信用供給全体のGDP比はそれほど落ちなかったとのことである)。このようにユーロ圏で銀行融資が伸びなかった理由の候補としてCecchetti=Schoenholtzは、一般事業会社の債務が既にGDPの100%を超えていること(米国は73%、英国は84%)や、規制強化の影響(国ごとから単一監督機構に移行したことにより不良債権を維持できなくなったこと、資本強化規制による融資の一時的な停止、マイナス金利下ではコスト高となる預金への依存が新たな流動性要求基準によって高まったこと)を挙げている。


以上からCecchetti=Schoenholtzは、小幅のマイナス金利は銀行に破滅をもたらすわけではない、と結論している。貸し手は適応できるのである、ただ、それにも限界があり、経済規模が大きいほど現金制約が効いてきて、マイナスにできる度合いも小さくなる(スウェーデン=-1.25%、スイス=-0.75%、ECB=-0.40%、日本=-0.10%)、と彼らは言う。従って、FRBがマイナス金利を適用できる度合いについては、彼らは一部の研究者ほど楽観的になれず、様々な要因を考えるとそれはリスクの高い実験になる、と述べている。