フィリップス曲線叩きに反論する5つのポイント

前回エントリでリンクしたTony Yatesは、Andolfatto=クルーグマン論争について以下の5点を指摘している。

  1. Benati論文が指摘したような失業とインフレの間の相関の変動は、それ自体では、現代マクロモデルでフィリップス曲線を構成する総供給との関係の有無について明らかにすることが少ない。需要と供給へのショックの構成比が変化すれば、モデルの世界ではこの相関も素直に変化する。従って(失業率の低下と低インフレの共存という)データの変化自体は、それらのモデルとそのフィリップス曲線を棄却するには十分ではない。
  2. とはいえ、Nick Roweが思い起こさせてくれたように、フィリップス曲線が存在するからといって失業率の低下がインフレ率の上昇を「引き起こす」とは言えない。この場合の主因は、背景にある需要ショックである。
  3. 自分に言わせれば、フィリップス曲線を攻撃したい人は、物価も名目賃金も情報集合も粘着的ではない、と主張しなくてはならない。いずれかが粘着的なモデルでは、緩和的な金融ショックは正の生産ギャップを生じる。
    • 実証マクロデータからは、金融政策ショックのような名目ショックは実体経済に影響する、という結論が導出されたはずで、しかもその結論はショックの構築方法や識別方法についてかなり頑健だった。これは、伸縮的な物価や情報という概念とは反する結果。また、サーベイデータやミクロの価格データからも、伸縮的な価格の現物市場という概念とはあまり相容れない結果が出ている。
  4. フィリップス曲線における相関の変化は、モデルパラメータの変化からも生じる。そのパラメータの中には、自然失業率を定義するものも含まれる。
    • これはモデルが不完全であることの表れと思われるかもしれないが、もし物価、名目賃金、情報集合のいずれか、もしくは3つすべてが粘着的であると思うならば、そうした当初のパラメータの変化を後付けで説明するモデルはすべて、総供給との一連の関係(=現代フィリップス曲線)に包摂されることになる。
  5. 上記の点を認めつつも、フィリップス曲線や自然失業率は構成要素が不確実なので政策的には有用な概念ではない、と主張する人を時折り見掛ける。しかし政策担当者は構成要素の不確実性込みでモデルを受け止めているので、こうした批判はほぼ無意味である。不確実性の有無で最適政策は変わってくるだろうが、その概念そのものを捨てるという話にはならない。