ゼロ金利下限はどの程度の頻度で問題になるか?

以前、Schmitt-Grohe and Uribe(2009)の枠組みを基に、名目金利がゼロ金利下限に達する頻度が(論文の意図とは裏腹に)15年に一度と結構高いものになる可能性を示したことがあったが、デロングがシミュレーションでその確率をより厳密に計算している。彼がシミュレーションのベースにしたのはローレンス・ボールの1997年の論文のモデルで*1、それにゼロ金利下限を導入した以下の一連の式を用いている。
  
ここで第一式はIS曲線(ないし誘導形のオイラー方程式)、第二式はフィリップス曲線である。rは実質政策金利、r*は経済のヴィクセル的な中立金利、yはインフレが加減速しない潜在生産水準からの生産の乖離、π - π*は中銀のインフレ目標からのインフレの乖離である。デロングはπ* = 2%、r* = 1%に設定している。パラメータについてデロングは、λ = 0.8、β = 1、α = 0.4、μ = 1に設定している*2。その上で、ηとεの分散をそれぞれ0.0001に設定したところ、以下の結果を得たという。

即ち、54年目〜60年目の7年連続で負のISショックが発生し、生産ギャップが-7.5%に達した。中銀は56年目に名目金利を0.08%に下げ、それ以降はずっとゼロに置いたが、59年目にデフレによって実質金利がヴィクセル的中立金利を上回ったためにデフレスパイラルが始まり、生産ギャップは68年目に-10%を下回ったという。


デロングがこのような計算をしたのは、FRBインフレ目標を2%から引き上げることを検討すべき、という公開書簡に彼が署名したことが背景にあると思われる。その書簡に対するイエレンの反応を「イエレンは分かっている」と好意的に取り上げた後続エントリで彼は、上述のシミュレーション結果について、25年ごとに1/3の確率で経済が駄目になる、という言い方をしている。
その上で彼は、デフレスパイラルを避けるためにインフレ率に年率-1.5%の下限を設けたシミュレーションを行っている。その結果は以下の通り。

さらに目標インフレ率を2%から5%に引き上げたシミュレーションを行ったところ、デフレが前述の「速度制限」に引っ掛かる割合は0.3%になったという。


デロングは、これが正しいモデルによる正しいカリブレーションというわけではないが、そのための出発点となるのではないか、と断った上で、正しい方法が分かったならばそこから最適金利水準を求めることになるだろう、と述べている。

*1:デロングがオリジナルのテイラールールを使わなかったのは、ゼロ金利下限があるとインフレ低下の際に早めに金利を引き下げ、それによってゼロ金利下限に到達する際のインフレ率をより高めにする、という誘因が中銀に働くのでは、という問題意識による。

*2:ちなみにμは、生産の乖離の変動に比べてインフレの乖離の変動をどの程度忌避するかを示す比率。