米国と日本の新フィッシャー効果

ときわ総合サービス研究所‏さんもツイートされているが、小生がフィッシャー式逆さ眼鏡派呼ぶ経済学者の一人であるコロンビア大のMartín Uribeが表題のNBER論文を上げている(原題は「The Neo-Fisher Effect in the United States and Japan」)。
以下はその要旨。

I investigate the effects of an increase in the nominal interest rate on inflation and output in the United States and Japan during the postwar period. I postulate a structural autoregressive model that allows for transitory and permanent nominal and real shocks. I find that nominal interest-rate increases that are expected to be temporary, lead, in accordance with conventional wisdom, to a temporary increase in real rates that is contractionary and deflationary. By contrast, nominal interest-rate increases that are perceived to be permanent cause a temporary decline in real rates with inflation adjusting faster than the nominal interest rate to a higher permanent level. Estimated impulse responses show that inflation reaches its long-run level within a year. Importantly, because real rates are low during the transition, the economy does not suffer an output loss. This result is relevant for the design of monetary policy in economies plagued by chronic below-target inflation, for it is consistent with the prediction that a credible announcement of a gradual return of nominal rates to normal levels can bring about a swift convergence of inflation to its target level without negative consequences for aggregate activity.
(拙訳)
私は戦後の日米において名目金利引き上げがインフレと生産に与える影響を調べた。ここでは、一時的および恒久的な名目ならびに実質ショックを許容する構造的自己回帰モデルを前提とした。一時的と予想される名目金利の上昇は、通常の知見通りに、引き締め的でデフレ的となる一時的な実質金利の上昇をもたらすことを私は見い出した。対照的に、恒久的と見做された名目金利の上昇は、インフレが名目金利よりも早く恒常的な高水準に調整されることにより、実質金利の一時的な低下をもたらす。推計されたインパルス反応は、インフレが長期水準に一年以内に到達することを示している。重要なことは、移行期間中は実質金利が低いため、経済には生産の損失が生じない。この結果は、慢性的に目標を下回るインフレに悩まされる経済における金融政策の設計にとって重要である。というのは、これは、名目金利を通常水準に徐々に戻すことを信頼できる形でアナウンスすれば、総体的な経済活動にマイナスの結果をもたらすこと無しにインフレを目標水準に速やかに収束させることができる、という予測と整合的だからである。

以下はungated版の日本についての結果。

素人目には、左側の恒常的な名目金利引き上げショックの図は、インフレが上昇した後に後追いで名目金利を引き上げる、という一般的なインフレと金融政策の動きをVARで拾い、因果関係を逆にして提示しているだけ、と見えなくもない。引き上げ幅をインフレ上昇幅以上にする、というテイラー原理を守らなければ、実質金利はそれは下がるだろうな、という感じである。一方、右側の一時的な名目金利引き上げショックについては、予防的な引き締めでインフレの上昇を抑え込んだ、という図に見える。少なくとも、名目金利を引き上げるや否や、引き上げが一時的か恒常的かを経済主体が即断し、それに合わせてインフレが即時に調整される(もしくはされない)、という解釈よりは、そちらの方が現実的な解釈かと思われる。