「Formerly True Theories (Wonkish and Self-Indulgent)」と題したエントリでクルーグマンが、かつては正しかったが、それを生み出した背景ゆえに成立しなくなった理論の例として以下を挙げている。
- マルサス経済学
- ヒュームの正貨流出入機構論*1
- 1752年の「Of the balance of trade*2」は、経済学の発展において画期的な著作であり、明示的な数学は無いものの、単純な思考実験で現実世界を解き明かす(かつ、重要な政策指針を提示する)最初の真の経済学モデルだった。
- Glasnerは、部分準備銀行の台頭と中央銀行の裁量によってこれは19世紀には良いモデルではなくなった、と言うが、銀行準備金が正貨の形を取り、米国のように銀行券が正貨に裏付けられている間(=19世紀の大部分)は、正貨流出入機構は概ね健在だった。
- その一方で、貿易収支と正貨流出入の間の単純な関係は、資本の広範な移動性によって崩れた。
- 英国の投資家が米鉄道会社の社債をどっさり買い込む時には、もはや我々はヒュームの世界にはいない。
- だが、そのことは、ヒュームが「彼の」世界について誤っていたことを意味しない。
- 硬貨が最初に導入された時から18世紀終わりないし19世紀初めに掛けての歴史においては、ヒュームの正貨流出入機構のようなものが間違いなく機能していた。
- 例:スペインの銀による欧州全域での物価の上昇
- ヒュームの言う通り、スペインの銀はスペインの物価を上昇させ、貿易赤字をもたらし、銀はスペインの貿易相手国に流出していった
- 例:スペインの銀による欧州全域での物価の上昇
- 硬貨が最初に導入された時から18世紀終わりないし19世紀初めに掛けての歴史においては、ヒュームの正貨流出入機構のようなものが間違いなく機能していた。
- (ヒュームもその出自である)スコットランド人をはじめとする人々が現代的な銀行制度を発展させ、資本を国境を越えて投資するようになった。そうした商業的な技術革新は、ほかならぬデビッド・ヒュームやアダム・スミスを生み出した進取の精神の賜物だった。