トランプ関税は有効か?

クルーグマンがトランプの関税政策を批判するNYT論説を書いた*1ところ、ディーン・ベーカーがクルーグマン異を唱えた(H/T PGL@Econospeak*2)。以下はベーカーの主張の概要。

  • 貿易赤字は問題*3。それを是正する通常のメカニズムは為替調整(ドルの減価)だが、海外政府がドルを大量に買い上げているため、そのメカニズムは発動していない。海外政府のドル買いは、一つには金融危機に備えて外貨準備を積み増すためだが(そうした目的のために巨額の外貨準備が必要と思われている点でIMFは失敗していると言える)、自国通貨に対するドル高を維持して貿易黒字を保つという目的もある。
  • 中国はそうした操作を積極的に行っていた。トランプは、選挙期間中は中国を為替操作国に認定すると公約していたが、北朝鮮問題(や娘が手掛けている衣服の中国での販売)のためにそれを破棄した。
  • トランプが為替という手段を放棄したため、関税に頼ることになる。ある種の関税は正当性があると同時に有用。オバマ大統領も中国からの輸入に関税を掛けたことがあった。中国は輸出補助金などを用いることにより明らかに貿易のルールを破っている。おそらくクルーグマンオバマ政権の関税もひどいものだと思っているのだろうが、それらの関税は別に貿易戦争を引き起こさなかった。
  • ベーカーは、ブッシュ時代の2002年の鉄鋼への関税を評価しており、その点でもクルーグマンとおそらく意見を異にしている。同関税は、3年期限のはずがWTO違反ということで2年余りで終わったが、その間に鉄鋼業界は一息つくことができた。関税のせいで鉄鋼価格は間違いなく高くなっただろうが、この猶予期間中に再編したことにより、鉄鋼各社は今や利益を上げている。それによりラストベルトの何万という雇用が守られた。
  • 社会保障や転職支援などもっとましな政策があったと言うかもしれないが、それは別の世界の話*4。一時的な関税という政策はそれほどひどいものではなかった。
  • 報復合戦が怖いというが、歯科医の業界ではもっと阿漕な保護主義を行っている。経済学者はなぜかそちらの保護主義に目を向けない。

*1:論説は「Oh! What a Lovely Trade War」と題されているが、このタイトルはもちろん、下記のリチャード・アッテンボローの監督デビュー作をもじっている。

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*2:PGLはベーカーに対しかなり批判的である。

*3:これはベーカーの持説。cf. ここ

*4:cf. ロドリックの見解