世界を不幸にしたGDPの正体

マンキューが下記の本の書評をサイエンス誌に書いている(H/T マンキューブログ)。

The Great Invention: The Story of GDP and the Making And Unmaking of the Modern World

The Great Invention: The Story of GDP and the Making And Unmaking of the Modern World


その書評によると、著者のEhsan Masoodは、GDPに欠けているものとして以下を挙げているという。

  1. 格差
    • 10人が年に2万ドルを稼ぎ2人が20万ドルを稼ぐ社会と、12人が5万ドルを稼ぐ社会とでは、GDPが同じになる。しかしこの2つの経済を同等だと思う人はいない。
  2. 社会の質に関する要因
    • 一人当たりGDPが同じでも、読み書きの能力が高く平均寿命の高い国の方が良いと思われるだろう。
  3. 環境
    • 大気や水を汚染し絶滅危惧種を脅かして所得が生み出されるならば、国の繁栄を測る際にそうしたコストは借り方に記入されるべき。

Masoodは、GDPよりも包括的な指標を開発しようとする各種の努力に称賛の言葉を送っているが、それに対する主流派経済学者の反応としてマンキューは、以下の3点を挙げている。

  1. 主流派経済学者もGDPが厚生の不完全な指標であることには同意している。
  2. ただ、完全には程遠いとはいえ、GDPは、人々が重視する多くの非金銭的な社会指標と相関している。
    • 例えば、所得の高い国は教育や医療も充実している。
  3. 単一の統計ですべてを捉えるということについては疑問視している。
    • 国の指導者も単一の統計だけを基に政策の選択を行わないだろう。

その上で、以下のように書評を締め括っている。

Let’s return to your personal situation. You prefer more income to less, but remember that pesky phrase “other things equal.” You might turn down a pay hike if it required taking a dangerous or unpleasant job. You might choose not to increase your income by working longer hours if it meant spending less time with your family. To make the right decisions, you don’t need one number that somehow incorporates your income, your job’s attributes, and the quality of your family relations. Producing such a measure would require many questionable judgments, and having one in hand would not make it any easier to face life’s inevitable tradeoffs.
The same is true of GDP. It is a key gauge of national prosperity, but no single statistic can capture everything that matters about a society. Masood is on the wrong track when he yearns for a single new metric that will supersede the current measure. But his highly readable book is a useful reminder of what GDP is and what it isn’t.
(拙訳)
個人的な状況の話に立ち返ってみよう。人は少ない所得よりは多い所得を好むが、「他の条件が等しければ」という面倒な注意書きがあることを思い出そう。もし危険もしくは不快な仕事を引き受けることを迫られるならば、人は昇給を断るかもしれない。家族と過ごす時間が減るならば、働く時間を長くして収入を増やそうとはしないかもしれない。正しい決断をするために、所得や仕事の特性や家族関係の特質を何らかの形で一つの数字にまとめ上げる必要は無いだろう。そうした指標を生み出すには多くの不確実な判断が要求され、その指標が手元にあるからと言って、人生において避けることのできないトレードオフに立ち向かうのが楽になるわけではない。
GDPについても同じことが言える。GDPは国の繁栄に関する主要な指標ではあるが、いかなる単一の指標も、社会にとって重要なことをすべて捉えることはできない。現行の指標に取って代わる単一の新たな指標を切望している、という点でマスードは間違った方向に進んでいる。しかし彼の非常に読みやすい本は、GDPが何であって何でないかを思い出させてくれるという点で有用である。