生産性上昇に関する9人のエコノミストの提案

をジャレッド・バーンスタインが各人に要望して収集し、自ブログで紹介している(H/T Economist's View)。以下はその概要。

  • ディーン・ベーカー(CEPR所長、最近バーンスタインと「Getting Back to Full Employment: A Better Bargain for Working People」という論文を共著*1
    • 完全雇用に勝る方法は無し。
      • 特許や著作権保護の廃止*2や、金融取引税による金融部門の縮小、および医療改革など、様々な無駄を削減する方法はあるものの、それらの効果は完全雇用による恩恵には到底敵わない。
    • そのほかバスなどの交通手段を無料化すれば、渋滞が緩和し、生産性が大いに上昇するだろう(ただし計測される生産性には移動時間がそもそも含まれていないため、そうした指標値自体はあまり上昇しないかもしれないが)。
  • アラン・ブラインダー(プリンストン大教授)
    • 恵まれない子供を中心とする幼児教育への注力を推奨。
    • 時間は掛かるが、見返りは大きい。
  • ヘザー・ブーシェイ(Heather Boushey[Wikipedia]、Washington Center for Equitable GrowthのExecutive Director、近著は「Finding Time: The Economics of Work-Life Conflict」)
    • 生産性の問題については、技術進歩の速度だけでなく、労働供給の質と量を気に掛ける必要がある。
    • 米国では雇用率が男女ともに低下した。絶対ベースだけでなく、OECD諸国と比べた相対ベースでも低下。
    • 生産年齢の女性の労働参加率はOECD21ヶ国中19位だが、それはワークライフバランスについて政策が十分に注意を払っていないことによるところが少なくない。米国はOECD参加国で有給の育児休暇を提供していない唯一の国(ただしカリフォルニア、ニュージャージーロードアイランド、ニューヨークの4つの州では実施)。
    • 労働時間も問題。その点で水曜日に労働省が時間外基準を更新したこと*3は重要。こうした政策によって休日休暇問題を解決し、労働供給を支えることができる。
  • ジョン・フェルナルド(John Fernald、サンフランシスコ連銀のエコノミスト
    • 生産性の高い成長を取り戻す魔法の弾丸は無いが、インフラや教育や基礎研究についての賢明な政策や、バランスの取れた規制は一助となろう。これらの政策は民間の資本投資や技術革新を補完するもので、低成長の世界においてもミクロ経済的な費用便益分析に適うものである。その補完性によって、成長が広がりを見せつつ上昇する可能性が少しでも高まる。
  • ジェイソン・ファーマン(CEA委員長)
    • 近年の生産性の鈍化は民間投資の鈍化が最大の要因で、それは先進国共通の現象。投資の低下をもたらしたのは世界的な需要の低迷。
    • インフラへの公共投資には皆が賛成するが、総需要を補強することによって民間投資を増やすインセンティブを高め、生産性の成長を加速させる、という側面は見逃されがち。需要が低迷している時には、公共投資の拡大は民間投資を「クラウドイン」し得る。
    • ただし中長期的には、生産性成長は全要素生産性でほぼ決まり、資本の追加はあまり関係無くなる。研究開発のための税控除の拡大は、法人税改革によって生産性成長を支援する一つの方法。それによって企業は、研究投資の経済への正の外部性を考慮するようになる。
  • アラン・クルーガー(前CEA委員長、プリンストン大教授)
    • 研究開発投資の促進や法人税改革といったいつもの提案の他に、時間外手当の閾値を週40時間から35時間に下げることを推奨。それが生産性を高めると思う理由は以下の通り*4
      • 企業が労働者の時間をもっと効率的に使うようになる。
      • 長時間労働は労働者を疲弊させる。
    • 他国では米国に比べて労働時間が低下した一方で所得は上昇した。その点で、労働時間については市場の失敗に我々は直面していると思われる。即ち、労働市場において、労働者が社会的に最適な水準に比べてより長く働くというイタチごっこ的な競争がもたらされているが、追加された労働時間は特に生産性が高いわけではない。
  • エリカ・グロッシェン(Erica Groshen、労働統計局局長)
    • 統計当局による政府の行政データへのアクセスを高めて公式統計を改善できれば、生産性を以下の3つの点で向上できる:
      • 回答者の負担軽減
      • 政府統計の価値の向上
      • 経済における企業や政府や個人の(配分や投資に関する)判断を改善(これは最大のメリットだが、測定も最も困難)
  • マーク・ソーマ(Mark Thoma、オレゴン大教授)
    • 独占禁止法の執行をより厳格にすること。Dietrich Vollrathが最近論じたように、市場で強力な位置を占めている企業では技術革新への投資のインセンティブが乏しくなるほか、他の企業の参入を防ぐことによりそれらの企業の投資をも制限することができる。
    • 女性やマイノリティといった不利な立場にいる集団が潜在性を発揮することを確実にすること。また、彼らがイノベーティブな考えを基に起業する際、必要な資源へのアクセスを平等にすること。例えば、ベンチャーキャピタルへのアクセスには男性と女性やマイノリティとでは差があるように思われる。
    • 歴史的にみて、政府の基礎研究への投資は、生産性を増強する派生的な流れを数多くもたらしてきた。現在、基礎研究への支援は50年来の低い水準にある。基礎研究への再投資は大いなる配当をもたらす可能性がある。
    • 最近の研究によれば、過去の経済成長に顕著に寄与してきた「変化をもたらすような起業」が減少している。その理由は不明だが、答えを突き止めて、この傾向を逆転させるような政策を実行することは、成長の停滞を克服する助けとなろう*5

*1:cf. ここ

*2:ベーカーは、特許や著作権保護のレントによる無駄が膨大なものになることを注記している。それについてバーンスタインは、特許についてはロバート・ゴードンも強調した、と書き添えている。

*3:cf. ホワイトハウスブログ

*4:これはプレスコットとは完全に逆の考え方と言えそうである。

*5:この点についてバーンスタインは、裕福な大企業が規模にものを言わせて成長を遂げる前の中小企業を買収する傾向が関係しており、その点でThomaの第一点と関連しているのではないか、とコメントしている。