金融の発展が経済成長に与える影響

についての実証結果をサーベイしたWPがECBより出されている(H/T Mostly Economics)。論文のタイトルは「Evidence on finance and economic growth」で、著者はAlexander A. Popov。以下はその一般向け要旨で挙げられた4つのポイントの概要。

  1. 金融の発展は経済成長に正の単調な影響を与える
    • 過去の実証結果の多くは、金融の発展は平均して経済成長に正の単調な影響を与えることを示している。
    • マクロデータ、産業データ、企業データのいずれに基づく研究でも、現代のデータもしくは過去のデータを用いた研究でも、先進国と新興国のいずれを主な対象とした研究でも、そうした結果が得られている。また、この結果は、金融と経済の発展の因果関係を見るための様々な計量経済的な技法について頑健である。
  2. 金融の発展が経済成長に正の単調な影響を与えるかは疑問
    • より最近の研究は、金融の発展が経済成長に与える影響が正であるだけでなく単調である、ということに疑問を投げ掛けている。
    • 多くの研究が、金融と経済成長の関係における非線形性を指摘し、異なる種類の金融活動の成長促進効果を比較している。ある閾値水準まで金融が発展すると、金融が経済成長に与える効果は分散する、というのがそれらの研究の大まかな結論。
    • そうなる理由としては、実体経済部門から金融部門への頭脳流出、金融の発展により増す脆弱性と経済成長との間のトレードオフ、不動産向け信用のようなある種の金融が起業家向け信用などに比べて持続的な経済発展への貢献がかなり低いという事実、が挙げられている。
    • こうした洞察は、金融仲介活動の実体経済活動への貢献度を高めると同時にその貢献をより持続的なものとする、という観点から、銀行活動の最適な監督についての議論に資する。
  3. 金融構造も重要
    • 従来の研究は、一国の金融構造、即ち経済における金融仲介機関の構成はそれ自体が経済成長に影響することはない、としていたが、より最近の実証研究はその見解に異議を唱えている。
    • 一人当たり所得が上昇するにつれ、金融構造は非銀行金融に移行する、という傾向がある。その結果、特に先進国で、市場ベースの仲介が銀行ベースの仲介よりも伸びる。技術進歩や、経済数値情報の利用可能性ならびに利用の増大や、金融システムの国際化の進展もそれを後押しする。
    • 最近の論文の多くは、経済発展とともに銀行の経済成長への限界寄与度は低下し、資本市場の限界寄与度が上昇することを示している。これは、市場金融の方が、技術革新や生産性の向上促進、および新たな成長の種への資金提供に優れていることが大きな要因となっている。
    • こうした洞察は、銀行同盟や資本市場同盟との関連で欧州で活発に交わされている金融活動の最適構成に関する議論にとって重要な意味を持つ。
  4. 社会的影響も重要
    • 金融の発展の様々な側面は、経済成長への一次的な影響のほかに、社会に無視し得ない影響を与える。
    • 例えば最近の実証研究は、所得ならびに性別の格差が縮小したことが特に銀行の競争と関連していることを示した。以前は地域限定だった銀行市場への規制が緩和されたことにより、経済活動が活発化し、かつては正式な労働市場に参加することが難しかった人にも経済的機会が生み出された。
    • ただ、人的資本への投資に金融が与える影響については結果が分かれている。金融の発展が学校に通うことのリターンとコストに影響することによって教育への需要が高まる、という研究者もいれば、正式な融資にアクセスできる起業家ほど子供たちが家族の企業に参加するために早く学校からドロップアウトする、という実証結果を見い出した研究者もいる。後者の研究によれば、金融によって押し上げられた地域経済活動も、非熟練労働のリターンを高めることにより同様の効果をもたらす。
    • 多くの欧州諸国が労働市場に構造的欠陥を抱えていることに鑑みると、金融市場が本当に人々の経済への参加を高めるかどうか、および、人的資本の蓄積にどのような影響を与えるか、を理解することは重要。