「非常に真面目な人々」の意味するところ

1日エントリで紹介したピーター・ゴルヴィッチ(Peter Gourevitch)が、クルーグマンの反応を受け、WaPo論説で改めて自分の意図を説明している。ゴルヴィッチは、FRBは正しい理論や正しいデータ解釈が制する学界のセミナーではなく、各集団の利害関係のせめぎあいという政治的ゲームなのだ、と述べている。それに対しクルーグマンは、それは自分が言っていることと同じではないか、と反論している

If you read the column that I think motivated his original piece, it was all about trying to understand the political economy of a debate in which the straight economics seems to give a clear answer, but the Fed doesn’t want to accept that answer. I asked who has an interest in tighter money, and has ways to influence monetary policy; my answer is that bankers have the motive and the means.
(拙訳)
彼の最初の論説のきっかけになったと思われる私の論説を読めば、通常の経済学が明確な回答を与えるにも関わらず、FRBがその回答を受け入れようとしないという議論における政治経済学を理解しようとしているのが主題だということが分かるだろう。私は、金融引き締めにおいて利益を得ると同時に金融政策に影響を及ぼすことができるのは誰か、と問い掛け、銀行家はその動機と手段を有している、という答えを出した。


ただゴルヴィッチは、以下のようにも述べている。

Krugman knows all of that, but rarely notes it. I read him regularly and would guess his ideas about this broader context enter his columns perhaps once every six months, while explanations focused on the device of Very Serious People appear far more frequently.
(拙訳)
クルーグマンはそうしたこと(=FRBの政策決定が各集団の利害関係のせめぎあいという政治的ゲームだということ)を完全に理解しているが、それについてあまり書いていない。私は彼のコラムをいつも読んでいるが、そうした背景についての彼の考えは6ヶ月に一度程度くらいしかコラムに現れないようだ。一方、非常に真面目な人々という新語についての説明は、それより遥かに頻繁に現れる。


それに対するクルーグマンの反応。

...I guess I have to conclude that he isn’t reading the columns very carefully. I talk all the time about interests and political pressures; the “device of the Very Serious People” isn’t about stupidity, it’s about how political and social pressures induce conformity within the elite on certain economic views, even in the face of contrary evidence.
(拙訳)
・・・彼は私のコラムをあまり注意深く読んでいないと結論せざるを得ないようだ。私は、利益と政治的圧力について常に語っている。「非常に真面目な人々という新語」は馬鹿さ加減についての話ではない。それは、エリートにおいて、ある経済的見解の一致をもたらすような政治的・社会的圧力についての話である。そうした見解の一致は、逆の証拠が存在するにも関わらず起きている。


ただ、金利引き上げが銀行の利益につながるということにクルーグマンが気付いたのはつい最近であり*1、それまでのクルーグマンは、「非常に真面目な人々」を、自分が何を言っているか分かっていない人々と概ね同義に扱っていた*2ような気もするが…。

*1:こちらブログ記事では自分にとってアハ体験だった、と書いているほか、後続のブログ記事では、貿易を専門とするにも関わらずそうした局所的な利害関係が政治経済を動かすことに今まで気付かなかった自分は愚かだった、とも書いている。

*2:実際、前注のリンク先の直後のブログ記事でも、金利引き上げを求めたアンドリュー・センタンス・元イギリス金融政策委員会(MPC)委員について、「...since he offers no reason for rejecting basic monetary economics, it’s hard to escape the suspicion that he has no idea that this is what he’s doing」と書いている。