FRBに次の景気後退を退けるだけの力は本当にあるのか?

ジャレッド・バーンスタインが表題のWaPo論説(原題は「Will the Federal Reserve really have what it takes to fight off the next recession?」)で、FRBのDavid Reifschneiderの直近の論文取り上げ、同論文の論理を以下の3点にまとめている。

  • 景気回復が続くならば、金利が必要な水準に戻るだけの時間的な余裕があるかもしれない。
  • 金利が戻るべき水準はかつてより低くなっている。
  • FF金利だけが政策ツールではない。量的緩和フォワドガイダンスもある。

それに対しバーンスタインは、このReifschneiderのストーリーには「もしも(イフ)」が多過ぎるとして、内在している前提条件として以下を挙げている。

  • もしも3%の目標金利に戻るという金融徒競走に勝てるならば(予防的な引き上げは無しで――後で修理が容易になるために今経済をFRBに壊して欲しくは無い)
  • もしもバランスシートに3-4兆ドルを追加する度胸がFRBにあるならば
  • もしも量的緩和フォワドガイダンスにモデルが言うような経済成長と雇用へのプラスの影響があるならば
  • もしも人々の予想がフォワドガイダンスによって本当に動かされるならば

こうした前提条件に対しバーンスタインは、以下のような疑問符を付けている。

  • FRBが予想する金利経路では、確かに金利は長期的には3%に戻ることになっている。しかし、市場予想はそれよりかなり低い。このことは、次の二重の問題をFRBに投げ掛けている。
    • 市場が正しければ、FRBの火力の限界の問題は切実なものとなる。
    • 信頼性の問題。フォワドガイダンスは市場参加者が予想を変化させることを通じて機能するが、現時点で市場はFRBの予想を信じていない。
  • 現行の回復期において、超低金利が長期間続いたにも関わらず完全雇用と完全な成長を取り戻していないことは、金融政策にモデルが言うような経済成長と雇用へのプラスの影響が本当にあるかどうかを懸念する理由となる。

そこでバーンスタインが推奨するのが、金融と財政の両政策による「ワンツーパンチ(one-two punch)」である。


このバーンスタイン論説にクルーグマン反応しバーンスタインに賛意を表するとともに、Reifschneiderの以前の共著論文*1――共著の相手は最近サマーズとクルーグマン批判されたジョン・ウィリアムズ――を取り上げ、以下のように書いている。

And I can’t help but recall a 1999 paper by Reifschneider and John Williams about inflation targets and the risk of hitting the zero lower bound. They concluded that a 2 percent target should be enough to make this a minor concern — the zero bound would probably be binding only 5 percent of the time, and ZLB episodes would last on average only 4 quarters:...
In fact, we have just gone through an 8-year — 32 quarter — ZLB episode, which accounts for more a quarter of the time that has passed since the beginning of the Great Moderation. Basically, that optimistic take was off by an order of magnitude. Shouldn’t that miss give the Fed pause now?
(拙訳)
また私は、インフレ目標とゼロ金利下限に達するリスクについて書かれたReifschneiderとJohn Williamsの1999年の論文を想起せざるを得ない。彼らは、2%の目標は、この問題を大して懸念するに及ばないものにするのに十分だ、と結論した。2%目標の場合、ゼロ下限は全期間の5%において制約となるに過ぎず、ゼロ金利下限の期間は平均して4四半期続くに過ぎない、とのことである:・・・*2
実際には、我々は8年、32四半期のゼロ金利下限の期間を経験しており、それは大平穏期の開始以降経過した時間の1/4以上を占めている。つまり、彼らの楽観的な見方は一桁違っていたことになる。この誤りを受けて、FRBは立ち止まって今一度考え直すべきではないか?

*1:本ブログではここで取り上げたことがある。

*2:ここでクルーグマンは論文の表1を引用している。