ギリシャ危機に纏わる9つの神話

ギリシャヤニス・バルファキス財務相が、自ブログで、4年間同僚だったというジェームズ・ガルブレイスの表題のPolitico論説引用している*1(原題は「Nine Myths About the Greek Crisis」;H/T Economist's View)。
以下はその概要。

  1. 国民投票はユーロについてである
    • チプラス首相が国民投票を発表するや否や、オランド、キャメロン、レンツィ、およびジグマール・ガブリエル独副首相は、反対はユーロ離脱を意味する、と述べた。ジャン=クロード・ユンケル欧州委員会委員長は、反対はEU離脱を意味する、とまで述べた。しかしギリシャは投票結果に関わらず不可逆的にユーロとEUにコミットしていることを政府は何度となく言明している。また条約によれば、ギリシャは法的にどちらからも除名されることはできない。
  2. IMFは柔軟だった
    • ラガルド専務理事はIMFは交渉において柔軟性を示してきた、と主張するが、4ヶ月間にIMFは税、年金、賃金、集団交渉、およびギリシャの債務の額について、ほぼ何も譲歩しなかった。ギリシャ側の交渉責任者であるユークリッド・ツァカロトス*2は、交渉決裂に関する詳細を記したメモで、「それでギリシャ政府は基金が提示した柔軟性とやらについてどう考えているかって? それは見ものだ。」と述べている。
  3. 債権者は寛容だった
    • メルケルは債権者がギリシャに提示した条件を「非常に寛容」と評したが、彼らは厳しい財政緊縮策、達成不可能に近い財政黒字目標、既に国民の所得の四分の一以上を犠牲にして国を恐慌に陥れた過酷な政策の継続に固執した。明らかに必要な債務再編も拒絶された。
  4. ECBはギリシャの金融の安定性を守った
    • 中央銀行は支払い能力のある銀行の金融の安定性を守るはずだが、2月初旬以降、ECBはギリシャの銀行への直接金融を削減し、特別「緊急」条件下の高くつく流動性を細々と提供するに留まった。これによって促進された緩やかな銀行取り付けは、経済活動を麻痺させた。交渉が決裂すると、ECBは援助を制限し、急速な銀行取り付けを促進して、それを口実に資本移動規制を課し、事実上資本移動を封鎖した。
  5. ギリシャ政府は米国との同盟関係を危うくしている
    • 現左派政権が親露・反NATOであると決めて掛かっている米保守派の一部はそう懸念している。ギリシャの左派が歴史的に米国に不満を持っていることは確かであり、特に1967年から1974年に掛けての軍事政権を支援したCIAについてはそうである。しかしドイツとの関係もあり、ギリシャの左派の態度は変化している。現政府は親米であり、NATOの一員という立場を堅持している。
  6. チプラスはIMFを「犯罪」組織と呼んだ
    • それは、非常に穏健な議会演説に対し、ブルームバーグがご丁寧にも過熱気味の見出しを付けたもの。演説では、緊縮策が最初に課された2010年時点のギリシャの経済ならびに債務に関するIMF見通しが破滅的なまでに楽観的だったことを正しく指摘した。チプラスが債権者に出したすべての手紙では、儀礼的で礼儀正しい言葉遣いがなされていた。
  7. ギリシャ政府はゲームをプレーしている
    • バルファキス財務相が経済学のゲーム理論を知っていることを以って、怠惰な有識者は、彼がチキンゲームやポーカーやその他のゲームをプレーしている、と何ヶ月も論じてきた。2週間前ヘラクリオンでバルファキスは再度そのことを否定した:「我々はブラフを掛けてはいないし、メタブラフを掛けてもいない。」 実際、隠されたカードは存在しない。労働者の権利についてにせよ、貧困水準にある年金の減額反対にせよ、叩き売り価格での民営化についてにせよ、ギリシャが譲歩を拒む最低ラインは、交渉の第一日目から変わっていないことは明々白々。
  8. 賛成は欧州を救う
    • 「賛成」はさらなる緊縮策と社会の破壊を意味し、それを導入する政府は長続きできない。ギリシャだけではなく全欧州において、真に親欧州的な左派政権はチプラスとバルファキスの政府が最後となるだろう。次期政権は反欧州的なものとなり、ギリシャのナチ党である黄金の夜明けのような極右も入閣するかもしれない。そして反欧州の火はフランス、英国、スペインを含む他国にも燃え広がるだろう。
  9. 反対は欧州を破壊する
    • ギリシャを救い、ひいては欧州を救えるのは「反対」だけである。「反対」はギリシャの人々が折れないこと、彼らの政府がこれからも続くこと、債権者がこれまでの欧州の政策が失敗したことを遂に受け入れざるを得ないことを意味する。そこから交渉が再開することになる。あるいはもっと正確に言えば、適切な交渉がそこから開始される。欧州が救われるためにはそのことが決定的に重要である。米国が品位と民主的価値と自らの国益について口を開くならば、今をおいてない。

*1:コピペミスか、あるいは「大事なことだから二回言いました」なのか、同じ記事を二回貼り付けている。

*2:ガルブレイスはTsakalotosをTsakalatosと誤記している。