ずれた間の悪さも…

齊藤誠氏が、三井住友トラストペンションジャーナルの2014年6月号(Vol.3)の記事において、実質為替レートと日米の物価連動国債金利差との関係について考察している(H/T 氏の10/11ツイート)。両者の関係自体への考察には異論は無いが、結論の一項で以下のように記述している点が気になった。

2013年春からの円安は、物価連動国債金利の日米格差が負に転じたことを反映しているが、日米金利格差の急激な低下は、日本の物価連動国債金利の低下よりも、米国の物価連動国債金利の上昇に起因している。したがって、2013年春より日銀が金融緩和政策を積極的に展開した事情よりも、同期間において連銀が金融緩和政策を慎重に転換してきた事情の方が、実質円/ドルレートに対してより大きな影響を及ぼしてきたと推定できる。

というのは、氏の記事中のグラフに示されているように、円安が進んだのは2013年春からというよりは、むしろ2012年末に次期安倍政権の円安政策への期待が高まった頃からだからである(cf. 例えばこちらの日経BP記事)。一方、米国の物価連動国債金利が上昇したのは、これも氏の記事中のグラフに示されているように、バーナンキの出口戦略に関する発言を受けた2013年6月以降のことである(cf. 例えばこちらのTHE PAGE記事)。従って、話のタイミングが合っていないように思われる。

氏のグラフは期間が長くサイズも小さくてやや見にくいため、記事に示されたデータを基に改めて両国の物価連動国債金利と実質円ドルレートを描画してみたのが下図である。

灰色線の実質円ドルレートが大きく円安方向に振れたのが、橙線の米国物価連動国債金利の上昇に半年ほど先んじていることが分かる。また、米国物価連動国債金利が大きく上昇した2013年6月には、実質円ドルレートはむしろ円高方向に振れている。


ちなみに日米の各物価連動国債金利ならびにその金利差と実質円ドルレートについて、相関および回帰分析を前月差ベースで行うと、以下のようになる(期間は2012年1月〜2014年8月)。

相関係数 回帰係数のt値
日TIPS金利 -0.323 -1.87
米TIPS金利 0.131 0.72
日米TIPS金利 -0.392 -2.34

この結果を見ると、むしろと言うべきかやはりと言うべきか、実質円ドルレートの動向には米国よりも日本の物価連動国債金利の動向が影響していたように思われる。