製造業の米中逆転はまだ先なのか?

マンキューボストン・グローブの「Made in the USA - US manufacturing still tops China’s by nearly 46 percent」と題された記事を「良い記事(A nice piece)」としてリンクしている。その記事では、副題にある通り、米国の製造業は未だ中国を46%上回っていると主張している。

具体的には、国連のデータを引用し、米国の製造業の2009年の生産高は2005年基準で2.15兆ドルであり、中国の1.48兆ドルを46%近く上回っている、と記事は述べている。


試しに記事の参照している統計から日米中3ヶ国のデータを抜き出して時系列グラフを描画して見ると、日本は2007年に中国に逆転されているものの、確かに米国はまだ余裕があるように見える(下図)。


しかしここで注意すべきは、なぜ2005年基準の実質生産高を2005年の為替レートでドル換算した系列の2009年の値同士を比較しているのか、記事では一切の理由付けがなされていない点である。普通に考えれば、ここは素直に名目ベースの値をその年(=2009年)の為替レートで換算した値を比較すべきかと思われる。その場合、米国の製造業は2.33兆ドル、中国の製造業は2.05兆ドルであり、その差は13%にまで縮まる。
その名目値系列を上と同様にグラフ化してみると、以下のようになる。

このグラフでは、日本は先ほどより1年早い2006年に中国に逆転されている。また、中国が米国に追いつくのも時間の問題であるように見える。


ちなみにこの国連統計で用いている元の対ドルレートは、2005年が1ドル=8.19元、2009年が1ドル=6.83元なので、その間に20%増価していることになる。即ち、記事が用いた実質ベースの46%という値と、名目ベースの13%という値の差33%のうち約6割は、為替の増価で説明されることになる。しかもそれでも元はまだ割安だと言われているわけであるから、本来のドルベースの中国の名目生産高はもっと大きく、既に米国と肩を並べている、もしくは追い抜いている可能性もある*1

*1:ただし、元安による過小評価は、元安に伴うインフレという形で現在の名目値に反映され、既に部分的には相殺されているものと思われる。