ずれた間の悪さも…・補足

12日エントリに関して、

というコメントをtwitterで頂いた*1


米国物価連動国債金利が-1.5付近を維持していたと仮定することは、日米のTIPSの金利差が概ねゼロであったことを仮定することになる。元論文の図6では金利差と実質為替レート対数値の回帰式を示しているが、その定数項は4.5666なので、金利差がゼロの時はexp(4.5666)=96.2円/ドルとなる。今回使用した実質為替レートは足元では名目為替レートより6〜8円円安となっているので、これは名目為替レートで90円/ドル前後に対応する。


ちなみに小生の手元のデータで2008/7〜2014/8の期間で同様のグラフを描くと、以下のようになる。

図中の線形回帰式は、
  実質為替レート=4.563(694.59) - 0.0832(-14.42)×TIPS金利
であり、論文とほぼ同様の結果となる(カッコ内はt値、以下同様)。ちなみにexp(4.563)=95.87である。


だが、論文の図6や上図をよく見ていると、2013年春以降のデータとそれ以前のデータを本当に一緒に扱って良いのか、という疑問が湧く。仮にその間に構造変化ないしレジームシフトがあったならば、この回帰は誤った推定をしていることになる。


そこで、12日エントリのグラフで日本のTIPS金利が大きく下がった2013年3月以降とそれ以前に分けて推計してみる。

<2008/7〜2013/2>

回帰式は、
  実質為替レート=4.5217(280.33) - 0.0478(-3.26)×TIPS金利
で、exp(4.5217)=91.99である。


<2013/3〜2014/8>

回帰式は、
  実質為替レート=4.6412(489.69) - 0.0304(-4.00)×TIPS金利
で、exp(4.6412)=103.67である。


この結果を見ると、異次元金融緩和の前後を区別せずに行った回帰では、定数項シフトを誤って定式化し、回帰係数を過大に見積もっている可能性がある。そして、定数項シフトにより、異次元緩和後には、金利差がゼロに戻ったとしても実質為替レートで104円/ドル前後、名目為替レートで97円/ドル前後で推移する可能性が高いように思われる。

*1:それ以前の経緯はこちらのブクマとそのリンク先参照。