クリス・ディローが表題の件について以下のような考えを巡らせている。
- 自信過剰とナルシシズムから経済的成功への因果関係はあるだろう。
- ナルシストは挫折によって心が折れないだけの面の皮の厚さがある。
- 雇用者が実際の能力と取り違えるような出来る雰囲気を漂わせているため、出世の階段を上りやすい。
- その一方で、選択効果もあるのではないか。成功した人は40代でリタイヤないしシフトダウンできる。というのは、6桁の給与を数年間稼げば、ロンドンの住宅価格インフレからして、ハムステッドに家を買って平均賃金の倍の収入を得ることが可能だからである。ということは、ナルシストや、自分のキャリアに「情熱を燃やす」ほど異常な人だけが、トップの経営者に上り詰めるほど長く仕事を続けることになる。
- また、ジリアン・テッドが言うように、成功が自信過剰をもたらすという面もあるだろう。
- Christoph Merkleらの新しい論文によると、中立的な観察者でさえ、単なる運を実力と見間違えるという。自己奉仕バイアスにより、経営者は猶更そうなるだろう。
その上でディローは、以下のような考察を述べている。
- これはパラドックスの存在を示している。鬱病や統合失調症といったある種の精神病を患った人々は、労働市場で不利な立場になる。ところが別の種類の精神障害を持つ人々は労働市場でむしろ有利となり、また、そうした精神障害が労働市場によって生み出される。それはトーマス・サーズの精神障害への見方に沿うものである。
- そう考えると、そもそも職階性というものは効率的なものなのか? 即ち、一貫して非合理的な人々の手に権力を握らせるというのは本当に良い考えなのか? その回答は2008年の銀行システムの崩壊が明確に与えたはずだが、職階性は存続している。これは、エスタブリッシュメント*1が、実証的証拠が意味を持たないハイパーリアルな経済を創り出すのに成功した、という傍証になっている。
*1:ちなみにディローはこのエントリの冒頭でオーウェン・ジョーンズの以下の近著に触れている(この後のエントリでは書評も行っている)。 The Establishment: And How They Got Away With It