フィル・コリンズの認知的不協和

をクリス・ディローが指弾している(H/T Economist's View)。といってもジェネシスフィル・コリンズではなく、かつてトニー・ブレアのスピーチライターを務めたフィリップ・コリンズ(Wikipedia)のこと。


ディローが槍玉に挙げたのはコリンズの18日付けタイムズ紙論説*1。そこでコリンズは、社会階層間の移動可能性の向上を求める一方で、以下のようなことも書いている。

These days when the economy is hollowing out with posh jobs at the top and grim jobs at the bottom, the prospect of social mobility recalls Gore Vidal's aphorism: "It is not enough to succeed. Others must fail."
(拙訳)
近年、おいしい仕事は上層、陰鬱な仕事は下層というように経済は空洞化しており、社会階層間の移動可能性の見通しはゴア・ヴィダル*2の警句を思い起こさせるものとなっている:「成功するだけでは十分ではない。他者が失敗せねばならないのだ。」

ディローは社会階層間の移動可能性の向上だけでは社会問題の解決には十分ではない、という立場に立っており、このコリンズの一節は、図らずもその立場に裏付けを与えるものとなっている、とディローは言う。従ってコリンズはひどい認知的不協和を抱えているのだ、とディローは指摘する。


さらにディローは、コリンズ(ないし、コリンズら社会階層間の移動可能性向上を問題の解決策として唱えるブレア派)が見落としている点として、以下の3点を挙げている。

  1. おいしい仕事もかつてほどおいしくなくなっている。医師もストライキを打とうとするくらい追い込まれているし、教師や学者もストレスや鬱を抱えている。
  2. 経済が空洞化しているということは、社会階層間の移動は一層難しくなっている:横木が欠けた梯子は登りにくい。
  3. 仮に一握りのまともな仕事にありつく競争がフェアなものだとしても、何百万人という人がそれにあぶれる。しかしそれは自身の責任というよりは、おそらくは遺伝的な能力の低さのためである。それが陰鬱な仕事、もしくはそれ以下の仕事にしか彼らがありつけない理由になるのだろうか?


社会階層間の移動可能性の向上だけでは十分ではないことを示すため、ディローは以下の思考実験を提示する:独裁者が人々を監禁するが、試験を通った者には警備の仕事を与える。特に試験の成績が良かった者には、給料の良い閑職を与える。ここでは社会階層間の移動可能性は存在しており、実力主義と機会平等さえ確保されている。しかし正義、自由、良い社会といったものは存在しておらず、そうしたものを得るためには刑務所が解体されなければならない、とディローは言う。
労働市場でそうした「刑務所の解体」を行い、経済全体の仕事と所得を向上させるために必要な施策としてディローは、以下を挙げている。

  • 管理主義や労働者の管理強化への攻撃
  • 労働の需要を増やすための拡張的なマクロ政策
  • 新技術と投資の促進
  • 労働者の交渉力と真の自由を向上させるための職の保証とベーシック・インカム

かつては現代化の旗手だったブレア派は、こうした政策を一切提示していない、とブレア派を腐してディローはエントリを結んでいる。

*1:多分これ(有料記事)。

*2:Wikipedia