ヒューストン大学准教授Dietz VollrathのブログThe Growth Economics Blogにおいて、GDPの国際比較を行う場合にどの価格体系を使うべきか、という点について興味深い指摘がなされている。同ブログでは携帯電話と散髪の二財モデルをベースに、米国とナイジェリアの仮想的な数値例を用いてその指摘を行っているが、その要点を簡単にまとめると以下のようになる。
ある国が価格pの財Aをx、価格qの財Bをy生産している場合、全体の生産高は
Y = xp + yq = {x + (q/p)y}p
となる。もしその国が財Bの生産に比較優位があり、量的にxよりもyが大きい場合、中括弧内のyの係数である(q/p)が大きいほど、その比較優位が強調された形で全体の生産が評価されることになる。ただ、一般に比較優位財の価格は国内では相対的に安価になり、(q/p)はむしろその国では他国より小さくなる傾向がある*1。従って、生産の国際比較を行う場合、pとqについて自国の価格体系を使うよりは他国の価格体系を使う方が一般にその国にとって有利になる。逆に、その国の価格体系を使うと他国が有利になる傾向がある。即ち、いずれの価格体系を使うのも正しい比較という面において問題含みということになる。
実際にGDPの国際比較のデータを提供しているPenn World Tableでは、すべての国について加重平均した価格を用いているという。ただ、これはこれで問題がある、とVollrathは指摘する。というのは、世の中の財の大半は先進国で消費されるため、ウェイトに用いている財の国別シェアが米国、西欧、日本に偏ってしまうからである。結果として、概ね富裕国の価格体系でGDPの評価が行われ、先進国と発展途上国のギャップが小さく評価されることになる。
Vollrathは、どのように実質GDPを測っても実際の厚生は測定できない、と断じている。仮に相対価格と相対的な限界効用が等しいという完全競争市場における前提が成り立っていたとしても、総量と相対効用の積によって人々がその財から享受する総効用について知ることはできない、と彼は指摘する。というのは、例えば彼の家族にとって3台目の車の限界効用はゼロに近いが、そのことが2台の車を持つことの効用がゼロであることを意味するわけではないからである。
そこでVollrathが提案するのが、すべての国の価格体系で測定した実質GDPの分布を提示することである。そうすれば、分布同士を比較することにより、少なくとも相対比較におけるノイズのイメージを掴むことができる、と彼は述べている。
*1:このように比較優位財の相対価格が低くなるという傾向は、需要ではなく供給の問題を反映している、とVollrathは指摘している。もし非比較優位財について供給も少ないと同時に需要も少なければ、その価格は低くなり、そうした傾向は存在しないはずである。