土地と動学的効率性

以下は、20日エントリで触れたStefan Homburg(ライプニッツ大学)の論文「Overaccumulation, Public Debt, and the Importance of Land」の結論部。

This paper has analyzed the overaccumulation issue theoretically and empirically. From both perspectives, the assertion that mature economies accumulate too much capital appears ill-conceived. The argument proceeded in four successive steps: First, overaccumulation is impossible in an economy with land. Second, bearing in mind that land values ​​are of the same order of magnitude as capital stocks, an economy with land is not a theoretical curiosity but the reality in which we live. Third, regarding overaccumulation, only the risky interest rates matter because these are unbiased measures of expected output losses. The "zero lower bound" chitchat confounds risky interest rates with safe rates that are relevant for monetary policy but have nothing to do with real investment decisions. Fourth, the risky rates exceed the growth rates consistently in all cases studied, which is a strong indication of dynamic efficiency. Thus the main conclusion reads that public deficits do not represent a free lunch but merely shift burdens into the future.
A final remark pertains to the Janus-faced nature of land: The arbitrage condition (5) relates interest rates and current land prices to expected future land prices, and recent experience from Asia, the US, Spain, and Ireland tells that such expectations can go seriously astray at times. Looked at in this way, land is both a long-run stabilizer and a short-run destabilizer of economic development.
(拙訳)
本稿は、過剰蓄積の問題を理論面および実証面から分析した。いずれの分析から見ても、成熟した経済が資本を過剰蓄積するという主張は正しいとは思われない。本稿の議論は4つの段階を踏んで進められた。第一に、土地のある経済では過剰蓄積は不可能である。第二に、土地の価値が資本ストックに匹敵する規模であることに鑑みると、土地のある経済は単に理論的に物珍しいものではなく、我々が生活している現実そのものである。第三に、過剰蓄積について言えば、危険利子率のみが問題となる。というのは、それが生産の期待損失の不偏測定値だからである。「ゼロ金利下限」云々の話は、危険利子率と安全利子率を混同している。後者は金融政策に関係するが、実際の投資決定とは無関係である。第四に、調べた事例すべてにおいて危険利子率は成長率を一貫して上回っており、動学的効率性を強く示唆している。ここから得られる主要な結論は、財政赤字はフリーランチを表すわけではなく、負担を将来に先送りするに過ぎない、というものである。
最後に、土地の二つの側面について触れておく。(5)式の裁定条件は、金利と土地の現在価格を、土地の将来の期待価格に結びつけているが、近年のアジア、米国、スペイン、アイルランドの経験からすると、そうした期待は時としてとんでもない方向に行ってしまう。そう考えると、経済発展にとって土地は、長期的な安定化装置であり、短期的な不安定化装置でもある。

ここで(5)式とは、Rtグロス金利、qtを地価、ρtを賃料として成立する式
  R_{t+1}=\frac{q_{t+1}+\rho_{t+1}}{q_{t}}
を指している。
論文中では、上式と、土地収益の所得全体に占める比率ρtL/Ytが正であることを基に(ここでLは土地面積、Ytは所得)、土地のある経済が動学的に効率的であることを証明している。


なお、20日エントリではChangyong Rhee論文にも言及したが、そのWPはここで読める。実はこの論文でも、土地のある経済の動学的効率性についてHomburgとほぼ同じ証明を行っている。ただ、コブ=ダグラス生産関数以外では土地の所得に占める比率が正とは限らないため、動学的非効率性の可能性は否定できない、とHomburgとは逆の結論を導き出している。