デロングがロゴフの4/8付けProject Syndicate論説を批判している。
デロングの批判はまず、2000年代の米国の経常赤字に関するロゴフの認識に向けられている。これについてデロングは概ね以下のようなことを書いている。
- 米国への投資は相対的に低リターンであったが、投資家はリスク調整後の高リターンではなく政治的リスクへの保険を求めていたと思われる。結果、米国の対外純資産残高が2000年代に大きく損なわれることはなかった。経常収支の世界的な不均衡によって米国の対外純資産残高の維持が不可能となり、必然的にドルの暴落とドル危機を招く、という懸念は杞憂に終わった。
- 次いで持ち出された懸念が、いざ世界的な不均衡が是正される段になると、米国は、消費財や国内建設やその他の投資部門から輸出部門に円滑に労働者を移行させることができず、高い構造的失業が生じるだろう、というもの。この懸念も外れていたことが2008年に明らかになった。米国は部門間で労働者と資源を問題なく移行することができた――危機が生じるまでは。
- ロゴフが後知恵的に持ち出した3番目の懸念は、2000年代の経常赤字が、住宅購入のための家計の借り過ぎを背景としていた、というもの。確かに借り過ぎと建て過ぎはあったが、それは全体から見れば小さなものだった。住宅の過剰供給は1兆ドル、住宅の購入者、建築主、融資者の総損失は5000億ドルに上ったが、ITバブル崩壊時に4兆ドルに上ったIT関連企業の価値の喪失よりは小さい。200兆ドルの資産を有する年間50兆ドルの世界経済においては、5000億ドルの損失は1日の株式市場の下げ幅に相当するに過ぎず、世界経済を10年に亘って不調に陥らせるような不均衡とはなり得ない。問題は借り過ぎや建て過ぎではなく、銀行の過剰レバレッジだったが、それについてロゴフは言及していない。
次いでデロングは、ドイツが財政政策を発動しても欧州が受ける恩恵は限られるだろう、というロゴフの見解に矛先を向けている。デロングによれば、その見解を打ち出すに当たってロゴフが依拠した研究は、ゼロ金利下限制約の無い状況に関するものであり、現状では無関係、とのことである。通常でない時に通常であるかのように話を進めたため、ロゴフの議論は大きく迷走している、という辛辣な言葉でデロングはエントリを締め括っている。