国民総所得よりは国民総可処分所得を使うべし

昨日に続きGDPネタ。

10日エントリでSNAの「第1次所得の配分勘定」と「所得の第2次分配勘定」について触れたが、今回の国際収支統計の改定では、そうしたSNAの所得の分類に対応する形で、従来の所得収支は第一次所得収支、経常移転収支は第二次所得収支と名称が改められた*1


この第二次所得収支までを織り込んだ指標の方が第一次所得収支までしか織り込んでいない指標より生活水準を計測する上で望ましい、と論じた記事がvoxeuに上がっている(H/T Mostly Economics)。著者はパヴィア大学のClara CapelliとGianni Vaggi。

同記事では、第一次純所得(NPI=Net Primary Incomes)と第二次純所得(NPI=Net Secondary Incomes)を用いて、国内総生産GDP=Gross Domestic Product)と国民総所得(GNI=Gross National Income)、国民総可処分所得(GNDI=Gross National Disposable Income)の関係が以下のように整理されている。

  国民総所得(GNI)=国内総生産GDP)+第一次純所得(NPI)
  国民総可処分所得(GNDI)=国民総所得(GNI)+第二次純所得(NSI)


その上で、GNIよりGNDIの方が指標として適切だ、と論じているのだが、理由は単純で、国によっては第二次純所得に含まれる海外からの送金額が馬鹿にならないからである。記事では、海外からの送金の絶対額と相対額が高い国の数値を示した2つの表を掲げ、以下のような考察を示している。

  1. GDPとGNIはいずれの表でもそれほど違わないが、GNDIは大きく違う。特に相対額の高い国についてはそうで、アルメニアでは7%、タジキスタンでは46%、リベリアでは75%、GNDIの方がGNIより高い。いずれの表の国も、多くは経済規模も人口も小さいが、ただネパールはそうではなく、人口は2700万人を超えている一方で、GNDIはGNIより25%高い。また、パキスタンバングラディッシュの人口は1.5億を超え、フィリピンの人口はほぼ1億だが、GNDIが10%前後GNIより高い。

  2. 第二次純所得の絶対額が第一次純所得のそれより大きい国が多い。

  3. 一般に思われているのとは逆に、第一次純所得は多くの国でマイナスで、GNIがGDPより小さい。主な資金流出は、各国に投資した外国企業への配当や分配利益。多くの発展途上国では、第二次純所得のプラスが第一次純所得のマイナスを補っている。インド、ベトナム、メキシコ、中国が顕著な例。一方、ナイジェリアとポーランドでは、第一次純所得のマイナスがあまりにも大きいため、第二次純所得でも補いきれず、GNDIはGDPより小さい。


著者たちは、各国際機関の公表する指標について、生産力を表すならばGDPの方が良いが、生活水準を表すならば現在用いているGNIよりGNDIを使う方が良い、と提言している。

*1:ただしそれぞれがSNAの「海外からの第1次所得」「海外からの経常移転」と完全に一致しているわけではない。国際収支統計からSNA統計への海外勘定の組み換え方法については「推計手法解説書(年次推計編)平成17年基準版」の第5章の図5-1を参照。