昨日のエントリで取り上げた表題の件について、昨年10月30日のサムナーブログへのコメントでBill WoolseyがRoweを支持し、以下のようにその主張をまとめている。
When I read Rowe, it was the MOA determines the _equilibrium_ price level.
The MOE is responsible for the disequilibrium phenomenon of the boom and bust. (And we are really more interested in bust.)
If you give the MOE its own price in terms of the MOA, and assume that the price always adjusts to keep the quantity of money equal to the demand for money, then there are no shortages of money to cause recessions.
As for the MOA, I don’t doubt that shortages of it will cause recessions. But they cause the shortages through a shortage of money. No shortage of money, and the market for the MOA just doesn’t clear.
Shortages of money don’t appear as people looking around for money, and finding the shelves in the money shop empty. They show up as reduced spending on other things, most importantly output.
It is the nature of the medium of exchange.
In my view, your are are too focused on equilibrium and not focused on the process by which the market moves towards equilibrium.
(拙訳)
私がRoweのエントリを読んだ限りでは、価値の尺度は均衡価格水準を決定する。
交換の媒介は好不況という不均衡現象をもたらす。
もし交換の媒介に価値の尺度で測った価格を設定し、その価格が貨幣量と貨幣への需要が常に等しくなるように調整されると仮定するならば、貨幣の不足は生じず、不況も引き起こされない。
価値の尺度について言えば、その不足が不況を引き起こすことに私も疑いを持っていない。しかし、それが不況を引き起こすのは*1、貨幣の不足を通じてだ。貨幣が不足すれば*2、価値の尺度の市場はまずもって清算されないのだ。
貨幣の不足は、人々が貨幣を探し回った挙句、貨幣店舗の棚が空であることに気付く、という形では現れない。それは、生産をはじめとする貨幣以外へのものへの支出の減少、という形で現われるのだ。
それこそが交換の媒介の本質に他ならない。
私の見た限りでは、貴兄は均衡を重視し過ぎており、市場が均衡に至る過程に十分な注意を払っていない。
このコメントに対しRoweは、「I agree with what Bill said.」と同意を示している。
一方のサムナーは、この説明に納得せず、以下のように反論している。
Bill and Nick, I don’t believe that “shortages of money” cause recessions. I believe that decreases in the supply or increases in the demand for money cause recessions. The money market is in equilibrium, people aren’t runnning around saying” I can’t find an ATM to get the cash I need” or “The line is so long at the ATM.”
There is (would be) a shortage at the existing price level and exisiting interest rate, but the interest rate (and other asset prices) adjusts in milliseconds to a monetary shock to bring the MOA market into a new equilibrium. Hence no money shortage.
(拙訳)
ビルとニック、私は「貨幣の不足」が不況を引き起こすとは考えていない。私は貨幣供給の減少もしくは貨幣需要の増加が不況を引き起こすと考えている。貨幣市場は均衡しており、人々は「現金が必要なのに引き出せるATMが見つからない」とか「ATMに並んでいる行列が長過ぎる」とか叫びながら駆けずり回ったりはしていない。
現行の物価水準や金利のままでは貨幣の不足が生じる(かも)しれないが、金利(や他の資産価格)は金融面での衝撃をミリセカンド単位で調整し、価値の尺度の市場を新たな均衡に持って行く。従って貨幣の不足は生じない。
これに対しRoweは、(以前ここで紹介したような)かねてからの市場に関する持説に基づき、サムナーの見解に疑問を呈している*3。
” The money market is in equilibrium, people aren’t runnning around saying” I can’t find an ATM to get the cash I need” or “The line is so long at the ATM.””
What do you mean by “money market”? There is no (single) market for the MOE. By definition, the market of MOE is *all* other markets. You are talking about the market for bonds, or the market for the MOA.
(拙訳)貨幣市場は均衡しており、人々は「現金が必要なのに引き出せるATMが見つからない」とか「ATMに並んでいる行列が長過ぎる」とか叫びながら駆けずり回ったりはしていない。
ここの「貨幣市場」とはどういう意味? 交換の媒介については(単一)市場は存在しない。定義により、交換の媒介の市場は他のすべての市場なのだ。貴兄がここで議論の対象にしているのは、債券市場、もしくは価値の尺度の市場だ。
昨日と今日に亘って紹介したサムナーとRowe(+Woolsey)の見解の相違について自分なりに簡単にまとめると、以下のようになる:
- サムナーが価値の尺度について語る時、物価の粘着性によって財価格がそれに連動することを基本的に仮定している。一方、交換の媒介の価格については粘着性を仮定していない。そのため、例えば価値の尺度の価値が上昇した場合、交換の媒介がオフサイドトラップよろしく独り取り残される形になり、それが不況の原因となる、というのがサムナーの考えである。この点についてはRoweも同意している。
- 一方のRoweは、価値の尺度の変動に物価が追随しないケースを一つの基本に据えている(cf. 昨年の10/30エントリの「思考実験1(Thought-experiment 1)」)。その場合、価値の尺度が変動しても、交換の媒介と財の関係には変化が生じないので、実体経済への影響は無い、というのがRoweの考えである。この点についてサムナーは、先月30日のエントリで、「Yes, that’s one possibility. Score one for Nick.(確かに、そうなる可能性はある。ニックに座布団一枚。)」と書いている。
- Roweは、人々が交換の媒介を使わなくなる(=貯め込む)ことによって財への需要が減少する、という不況プロセスを常に意識している。サムナーはその点についてあまり思いを巡らせていないように見える。