ゼロ金利下限における金融政策予想

以下はMichael D. BauerとGlenn D. Rudebusch*1SF連銀論文「Monetary Policy Expectations at the Zero Lower Bound」の要旨。

Obtaining monetary policy expectations from the yield curve is difficult near the zero lower bound (ZLB). Standard dynamic term structure models, which ignore the ZLB, can be misleading. Shadow-rate models are better suited for this purpose, because they account for the distributional asymmetry in projected short rates induced by the ZLB. Besides providing better interest rate fit and forecasts, our shadow-rate models deliver estimates of the future monetary policy liftoff from the ZLB that are closer to survey expectations. We also document significant improvements for inference about monetary policy expectations when macroeconomic factors are included in the term structure model.
(拙訳)
利回り曲線から金融政策に関する予想を得るのは、ゼロ金利下限近くでは困難である。標準の動学的な期間構造モデルではゼロ金利下限を無視しており、誤った結論に導きかねない。この点については影の金利モデルの方が優れているが、それは短期金利の予想においてゼロ金利下限によって惹起される分布の非対称性を考慮しているからである。我々の影の金利モデルは、実際の金利との適合ならびに予測において優れているのみならず、金融政策が将来的にゼロ金利下限から離陸するタイミングについて予想調査と近い推定値を導き出した。我々はまた、期間構造モデルにマクロ経済ファクターを取り込むと金融政策についての推測に有意な改善が見られることを見い出した。


以下はフォワード金利(黒線)、影の金利(赤点線)、モデル金利(赤線)の比較グラフ。YZ(3)が影の金利の3ファクターモデルで、MZ(2)が影の金利の2ファクターモデルにマクロ指標2つ(インフレ率、失業率ギャップ)を取り込んだもの。金利ファクターは主成分を用いたとの由。


次の図は、何ヶ月後にゼロ金利下限から離陸するかの分布図をそれぞれのモデルについて描いたもの。分布はかなり偏っているので平均値はあまり使えないこと、中位値およびモデルパスの予測値はおよそ30ヶ月で、(上図でも見られたように)フォワード金利からの予測よりは先になることが分かる。最頻値は中位値より小さめだが、損失関数を考えれば最頻値より中位値の方が望ましい、と論文では記述されている。


このゼロ金利からの離陸時期が何ヶ月先になるかの予想を時系列グラフにしたのが以下の図である。中位値およびモデルパスの予測値が他の2つの予測(NY連銀のプライマリーディーラー調査、民間予測機関のMacroeconomic Advisers*2の予測)に近いこと、それが2009年から2012年に掛けて伸びており、金融政策のスタンスがどんどん緩和的になっていることが分かる*3

*1:ルードブッシュについてはこちらこちらのエントリも参照。

*2:同社についてはここここ参照。

*3:論文では、これは金利では得られない情報であるとしつつも、利回り曲線の傾きの変化を捉えられない(=離陸後の引締め度合いは測れない、単に長期債購入によって長期金利が低下したのをゼロ金利期間の延長と誤認している可能性がある)点では不十分な情報である、と断っている。