昨日に続き出生率絡みの論文を紹介してみる。
以下は10年前のドイツはマックスプランク人口研究所のTomas Kögelの論文「Did the Association Between Fertility and Female Employment Within OECD Countries Really Change its Sign?」の要旨。
Recent literature finds that in OECD countries the cross-country correlation between the total fertility rate and the female labor force participation rate, which until the beginning of the 1980s had a negative value, has since acquired a positive value. This result is (explicitly or implicitly) often interpreted as evidence for a changing sign in the time-series association between fertility and female employment within OECD countries. This paper shows that the time-series association between fertility and female employment does not demonstrate a change in sign. Instead, the reversal in the sign of the cross-country correlation is most likely due to a combination of two elements: First, the presence of unmeasured country-specific factors and, second, country-heterogeneity in the magnitude of the negative timeseries association between fertility and female employment. However, the paper does find evidence for a reduction in the negative time-series association between fertility and female employment after about 1985.
(拙訳)
最近の研究によると、OECD加盟国における合計特殊出生率と女性の労働参加率のクロスセクション相関は、1980年代初めまでは負の値だったが、それ以降は正の値に転じた。この結果は、(明示的もしくは暗黙裡に)OECD加盟国において出生率と女性の雇用の時系列的な関係の符号が変化した証拠としてしばしば解釈されてきた。本稿では、出生率と女性の雇用の時系列的な関係の符号は変化していないことを示す。国同士のクロスセクション相関の符号が反転したのは、2つの要因の組み合わせによる可能性が高い。一つは、測定されない各国特有の要因の存在であり、もう一つは、出生率と女性の雇用の時系列的な反相関の程度が国によって異なるという点である。ただし、1985年ごろから出生率と女性の雇用の時系列的な反相関が弱まってきたという実証結果を本稿では見い出した。
この論文は、ノアピニオン氏の4/27エントリで出生率と労働参加率の正の相関関係が議論され、コメント欄で氏がこちらのエントリをその証拠として挙げたのを読んで、そこで掲げられている総務省のグラフについて日本ではどんな議論が交わされているかな、と「総務省 出生率 労働参加率」でぐぐった結果見つけた小崎敏男・東海大学教授の論文「女性の働き方と少子化に関する考察」で参照されていることから見つけたものである。ちなみにそちらの論文で小崎氏は
・・・この結果は,女性の労働参加率が増加すれば,子供の数が増えることを実証分析は支持していない。2000年以降,集計されたデータを用いた横断面分析で観察されている女性の労働参加率と出生率の正の関係は,2002年のミクロデータでは確認できない。
と述べている。
また、上記の検索では総合研究開発機構の5年前のNIRA政策レビューも引っ掛かったが、そこで白波瀬佐和子・東京大学大学院准教授(当時)は
出生率と女性の労働参加の関係を国ごとにプロットすると、両者は必ずしも逆相関する関係にない。この関係をもとに、女性の労働参加率を上げれば出生率も上がるかのような因果関係が想定された。しかし、ここでの2変数間のクロスは一時点の関係を示したにすぎず、そこまでにいたる各国の時系列変化の中身が検討されているわけではない。事実、スウェーデンでさえ、1970年代から1980年代にかけて、出生率と女性労働参加率が逆相関の関係にあった時期もある。ここでの2変数クロスから得られた最も重要な知見は、出生率が高い国の女性労働参加が必ずしも低いわけではないという点であった。しかし、この知見に基づいて、女性労働参加率を上昇させれば出生率も上がるのではないかと期待することは危険である。女性の就労決定において子どもの有無や夫の収入は重要であるが、出産行動において最も重要な規定要因は年齢である。両変数の決定構造は必ずしも同じ次元でリンクしていないので、少子化と女性の労働参加に対する政策議論は、区別して進めたほうがよい。
と両者の関係を安易に政策論議に結び付けることに警鐘を発している。