「散歩から探検へ〜政治を動かすもの」ブログの「黒田バズーカ砲は華麗なる空砲か(4)〜「雀を羆にすり替え」齋藤誠〜」と題された4/29付けエントリで、消費者物価は安定していたが、GDPデフレータが下がったためにデフレ感が蔓延していた、然るにそのGDPデフレータと消費者物価指数の動きの違いは交易条件によるものだった、という論考がなされている。
試しにGDPデフレータと国内需要デフレータとCPI(生鮮除く)の年度ベースの値を描画すると、以下のようになる*1。
確かにこれを見ると、概ねフラットに推移しているCPIに比べ、GDPデフレータの低下傾向が著しい。ただ、国内需要デフレータも、GDPデフレータほどでは無いにせよ低下傾向にあり、交易条件が両者の差をもたらしたわけではないことが分かる。
上図を前年比ベースで描画すると以下のようになる。
これを見ると、次のことが読み取れる。
- CPIと国内需要デフレータはほぼパラレルに動いているが、CPIの伸び率が0.5〜1ポイント程度高い。それによって最初の図で示された原系列の動きの違いがもたらされた。
- CPIがプラス圏内にあった2006-2008年も、国内需要デフレータはほぼマイナス圏内にあり、2008年に辛うじてゼロに達した。しかし2009年にはリーマンショックで再び大きく低下し、その後の2年間でまたマイナス幅を縮小させていったものの、2012年にはやや拡大している。
- 2003年まではGDPデフレータも国内需要デフレータに近い動きをしていたが、2004年以降はGDPデフレータの下方乖離が生じた。例外はリーマンショックによる国内需要デフレータの落ち込みで大小関係が一時的に逆転した2009年と、GDPデフレータの戻りで両者がほぼ重なった2012年。
では、GDPデフレータの動きへの国内需要、輸出、輸入の寄与はそれぞれどうなっているだろうか? そうした要因分解は、例えばここで行われているように、名目GDP成長率への項目別寄与度と実質GDP成長率への項目別寄与度の差として求めるのが通例である。上記の年度データについてそれを行うと、以下のようになる*2。
これを見ると、2004-2007年は確かに輸入がGDPデフレータの押し下げ要因になっている。しかし、輸出は2004年と2007年はほぼゼロで、2005-2006年はむしろプラスになっている。即ち、この期間については、前述のブログで引用されている
国際競争の激化で競争力を失った製品を安価で輸出し、高騰により高価で資源を輸入してきたことで、交易条件を低下(悪化)させ、所得を国内から国外へ漏出させ、GDPデフレーターを下げた
という齋藤誠氏の4/16付け日経・経済教室での記述は、輸入については当たっていたものの、輸出については当たっていなかったことになる。逆に、2008-2009年は円高の進展に伴い輸出の寄与はマイナスとなっているものの、輸入はゼロ(2008年)かむしろ2%以上のプラス(2009年*3)であった。2010-2011年には両方ともマイナスになるものの、2012年には輸入の寄与は再びプラスになっている。
円相場との関連を見ると、円安の進展は輸出の寄与をプラス方向に動かす一方で、輸入の寄与をマイナス方向に動かす、ということが言えそうである。しかし、輸入の寄与については資源価格の動向の影響も大きいので、円相場の影響を一概に論じるのは難しく、2010-2011年のように円高が進展したのにマイナスになる、ということも起こり得る。そう考えると、取りあえずは円安方向を目指し、同時に国内物価の下落を防ぐ、というのは金融政策の方向性として妥当なように思われる。
(関連エントリ)
日本の鏡像としてのカナダ - himaginaryの日記
名目GDPと失業率 - himaginaryの日記