1999年のバーナンキvs2002年のバーナンキ

昨年末にTim Duyが、デフレ脱却は中銀のインフレ目標だけでは駄目で、財金一体とならなくては効果を発揮しない、と書いた。本石町日記さんがツイッターでその内容を簡潔に以下のように紹介している*1

https://twitter.com/hongokucho/status/284163442250743809:twitter

https://twitter.com/hongokucho/status/284164539921072128:twitter


それに対しEconomistのFree Exchangeでライアン・アベントが反論している

Mr Duy makes his point apropos of a recent Floyd Norris piece. Mr Norris looks at the state of play in Japan in light of a 2002 speech by then-Fed-governor Ben Bernanke, in which he notably argued that, "under a paper-money system, a determined government can always generate higher spending and hence positive inflation". Mr Duy figures that Mr Bernanke was careful in the speech to specify that governments rather than simply central banks have this power. Mr Bernanke would seem to be somewhat sceptical of the ability of a central bank to reflate an economy all on its own when at the zero lower bound, Mr Duy suggests. That may also be why the chairman seems so desperate to convince Congress not to sock the American economy with a pile of tax hikes and spending cuts.

I think Mr Duy may be mistaken, about the importance of the Japanese news and the ability of the Bank of Japan to boost growth on its own, though not necessarily about Mr Bernanke's policy views. First, a change in policy to a higher inflation target could very well matter a lot. Mr Duy is right that the Bank of Japan has not managed even 1% inflation in recent years, but that could easily be interpreted as a matter of the Bank's preference. It's worth remembering that the Bank of Japan, after battling deflation for nearly a decade, raised interest rates in 2006 when it appeared that year-on-year core CPI might be on track to hit 1%. The Bank's actions strongly suggest that while it may not wish to see further deflation, it also isn't interested in meaningfully positive inflation.
(拙訳)
Duy氏は最近のFloyd Norrisの記事をとば口に主張を展開している。Norris氏はベン・バーナンキFRB理事時代の2002年講演の観点から日本の動きを描いている。同講演で彼は「不換紙幣制度の下では、決意を持った政府は常に支出を増やすことができ、それによって正のインフレをもたらすことができる」と強調した。Duy氏は講演の中でバーナンキ氏が敢えて、単なる中央銀行ではなく政府がその力を持っている、と述べたと見ている。中央銀行がゼロ金利下限の下で独力で経済をリフレートする能力についてはバーナンキ氏は幾分懐疑的なようだ、とDuy氏は言う。多額の増税と歳出削減で米経済を強打しないように議長が議会を納得させようと必死になっているのもそれが理由、とのことである。
私は、日本からのニュースの重要性、および、日銀が単独で成長を押し上げる能力についてDuy氏は間違っている、と思う。ただし、バーナンキ氏の政策観については必ずしも間違っていないかもしれない。第一に、インフレ目標を高める政策は大いに意味を持ち得る。日銀が近年では1%のインフレでさえ達成できていないという点でDuy氏は正しいが、それは同銀行の選好の問題ということで簡単に説明が付く。覚えておくべきは、デフレと10年近く戦った後で、コアCPIの前年比が1%に達しそうになった2006年に日銀が金利を引き上げたことである。この行動は、同銀行がさらなるデフレを見たくないと考える一方で、有意な正のインフレにも興味を持っていないことを強く示唆している。


この後でアベントは、中央銀行が単独で経済をリフレートできる根拠として、バーンナンキの1999年講演*2を挙げている。これは即ち、例のバーナンキ背理法が提示された講演に他ならない。そこでバーナンキは、外貨建て資産を無制限に購入すればいずれは円は安くなるし、仮にそれが起きなくても外貨建て資産を増やすのは悪いことではない、と述べている。
アベントは、2002年講演でその通貨の減価という選択肢にバーナンキがあまり重きを置かなくなった理由の候補として、以下の3つを挙げている。

  • 話の舞台が日本から米国に移ったが、輸出の重要性が米国では日本ほど高くないため、通貨の減価がそれほど強力なツールとはならない。
  • 国際市場におけるドルの特殊な役割。
  • ローレンス・ボールの指摘したようなバーナンキの“変心”*3

その上でアベントは、1999年のバーナンキの論理は依然として正しい、と評価している*4
またアベントは、日本の財政赤字GDPの1割に及び、政府債務は既にGDPの240%近くに達しているので、日銀は政府の協力を得ずとも擬似的な財政拡張策を追求できる、と指摘している。即ち、バーナンキ背理法国債について実行すれば良いではないか、という(日本では散々議論された)政策を提唱している。

*1:本石町日記さんはTim Duyの後続のエントリも次のように紹介している:https://twitter.com/hongokucho/status/286422170488422400:twitterhttps://twitter.com/hongokucho/status/286422910455906305:twitterhttps://twitter.com/hongokucho/status/286429530091044864:twitter

*2:正確には2000年1月9日のASSAでの講演のための1999年12月の原稿。

*3:cf. ここ

*4:cf. ここで紹介したデロングの「I think Bernanke (1999) had it dead right.」という評価。