The Baseline Scenarioでジェームズ・クワックが、2004年にSECは何を実際にやったのか、というテーマについて考察している(Economist's View経由)。
彼のこの論考のきっかけになったのは、本ブログの1ヶ月前のエントリでも紹介したアンドリュー・ローの書評論文である*1。そこでローは、2004年のSEC規則の改正がレバレッジ規制を緩和したという通説がまかり通っているが、それは事実では無い、と主張している。
この件に関するクワックの考察は概ね以下の通り。
- 確かに最低自己資本比率を1/12とする規制は変更されなかった。
- しかし、自己資本を計算するに当たってリスク対応分として差し引かねばならない額に関する規則は変更された。それまではその控除額の計算方法も規則で定められていたのに対し、社内モデルを用いて計算することが認められるようになった。
- それにより、証券会社(ブローカー−ディーラー)の控除額は平均して40%減少するだろう、とSEC自身が見積もっている(この資料のp.34455)。
- つまり証券会社は、保有しているポートフォリオや資産を変えないまま、計算方法を変えるだけで、自己資本を増やすことができた。するとその持ち株会社は、その余った自己資本を証券業務とは別の用途に振り向け、結果的にバランスシートを拡大できたことになる。
- ただ、その効果が2004年から2007年に掛けてのレバレッジ比率の増大に果たした役割は不明。あるいは大した役割は果たさなかったのかもしれない。
- 確かに高レバレッジは、大手投資銀行、ひいては金融システムを脆弱にする一助となったが、そうした高レバレッジ抜きでも、投資銀行が有毒な証券を製造・販売することによって大いなる損害を世の中にもたらしたことには変わりない。従って、SECの規則改正が金融危機をもたらしたのだ、という議論には与しない。その一方で、SECの規則改正がレバレッジにまったく影響しなかったという議論にも与しない。
クワックはまた、ロー論文を取り上げたEconomist記事の以下のグラフを引きながら、1998年時点のレバレッジ比率が2007年時点と変わらないことからするとSEC規則改正の影響は無かった、というローの主張についても考察している。
クワックはこれについて以下の2点を指摘している。
ちなみにこのクワックのエントリのコメント欄では、Per Kurowskiというコメンターが、SECの認めた計算方法の要件というのがバーゼル基準であることを示した自ブログの以前のエントリにリンクしつつ、要は2004年4月28日にSECはバーゼル委員会に自分の職務を丸投げしたのさ、と評している。
*1:ちなみにローはクワックとサイモン・ジョンソンの共著本である13 Bankersも取り上げているが、その書評については異論は無い、とクワックは書いている。