ポーランドがドイツの力の行使よりも恐れるもの

ポーランドの外相のシコルスキ*1がベルリンに乗り込んでぶった演説話題を呼んでいるようだFree exchange経由)。特にパンチが効いているのが以下の一節(こちらの日本語記事でも紹介されている)。

What, as Poland’s foreign minister, do I regard as the biggest threat to the security and prosperity of Poland today, on 28th November 2011? It’s not terrorism, it’s not the Taliban, and it’s certainly not German tanks. It’s not even Russian missiles which President Medvedev has just threatened to deploy on the EU’s border. The biggest threat to the security and prosperity of Poland would be the collapse of the Euro zone.
And I demand of Germany that, for your own sake and for ours, you help it survive and prosper. You know full well that nobody else can do it. I will probably be first Polish foreign minister in history to say so, but here it is: I fear German power less than I am beginning to fear German inactivity.
(拙訳)
ポーランドの外相として、2011年11月28日現在のポーランドの安全と繁栄にとって最大の脅威となっているのは何だと考えているか? それはテロでもタリバンでもなく、無論ドイツの戦車でもありません。最近メドベージェフ大統領がEUとの境界沿いに展開すると脅したロシアのミサイルでさえありません。ポーランドの安全と繁栄にとって最大の脅威は、ユーロ圏の崩壊です。
私は、ドイツ自身および我々のために、ユーロ圏の存続と繁栄を支援することをドイツに要望します。それがドイツにしかできないことは良くご存知のはずです。このようなことを述べるポーランド外相は史上初めてでしょうが、ドイツの力よりも、ドイツの不作為の方を私は恐れるようになっています


なぜユーロ圏の崩壊がポーランドにとっての脅威となるのか? Free exchange記事ではその理由を以下のグラフで説明している。

即ち、ここここで触れた欧州の銀行のデレバレッジが、ポーランドのような新興周縁国(記事ではもう一つの周縁国=the other peripheryと呼んでいる)をキャピタル・フライトという形で早くも襲い掛かっており、為替の下落を招いている、とのことである。こうした為替の下落はギリシャやイタリアが欲しくても手にできないものだが、新興国にとってはインフレと債務危機への序章となってしまう。ユーロ圏の崩壊に伴う深刻な不景気への恐れもさることながら、今まさに新興国が直面している脅威がそれだという。


その脅威はハンガリーで既に現実化しており、24日にはムーディーズによって国債がジャンク債レベルに引き下げられた。30日には通貨を支えるために政策金利が0.5%引き上げられたが、それは10%近い失業率と差し迫った景気後退の可能性という状況下で最も取りたくない選択肢だったはずである。ポーランドは外貨準備や外貨建て債務という点ではハンガリーよりもまだましな状態にあるものの、脅威に直面していることには変わりは無い、とFree exchange記事を書いたR.A.(多分ライアン・アベント)は報告している。



ちなみにシコルスキは演説を以下のエピソードから始めている:

20 years ago, in 1991, I was a reporter, visiting what was then the Federal Republic of Yugoslavia. I was interviewing the chairman of the Republican Bank of Croatia when he received a phone call with an obscure piece of news. Namely, that the parliament of another Yugoslav republic, Serbia, had just voted to print unauthorized amounts of dinars, the common currency.
Putting down the phone the banker said: “This is the end of Yugoslavia.”
He was right. Yugoslavia collapsed. So did the ‘Dinar zone’. We know what followed. Issues of money can be issues of war and peace, the life and death of federations.
(拙訳)
20年前の1991年、私は記者として当時のユーゴスラビア連邦を訪れていました。私がクロアチア共和国銀行の議長をインタビューしている最中、彼のところに、とあるニュースが電話でもたらされました。それは、別のユーゴスラビアの共和国であるセルビアの議会において、共通通貨のディナールを、独自に決めた額だけ発行することが決議された、というものでした。
電話を置くと、彼はこう言いました。「これはユーゴスラビアの終わりだ」
彼は正しかった。ユーゴスラビアは崩壊しました。「ディナール圏」も同じ運命を辿りました。その後に何が起きたかは周知の事実です。貨幣の問題は戦争と平和の問題、連邦の生と死の問題になり得るのです。

*1:この人のことは以前ここで触れたことがある。