コント:ポール君とグレッグ君(2011年第9弾)

富裕層への課税強化について、クルーグマンとマンキューが、同じ団体(Tax Policy Center)のデータをソースにしながらも、およそ正反対のことを述べていた。特にお互いへの言及は無いが、両者の考えの違いが際立つ好例なので、以下にまとめておく。

ポール君(9/20)
富裕層の払う税金のシェアが上がったからと言って、彼らが抑圧されているということになるのかね? Tax Policy Centerが良く使う技法を用いて、1979年から2005年に掛けて税引き後所得に税制変更が与えた変化を見てみると、超々富裕層が恩恵を受けたことが分かる(下図)。これはこの間に大きく進展した格差拡大のごく部分的な要因に過ぎないが、税制は格差を抑えるのではなく広げる方向に働いたのだ。それに異を唱える人は、この問題のみならず一般に信頼すべきではない。

   


グレッグ君(9/20)
「バフェット・ルール」についていろんな言説が飛び交っているけど、事実にとりわけしっかりと目を凝らすことが大事だと思う。現行の税制の累進性を表わすTax Policy Centerの表がこれだ。もしこの中の一つの事実しか覚えられないというならば、これにすべきだ:中流階級(5分位の真ん中)は所得の14.1%を連邦税として支払っているが、富裕層(全人口の最上位の1%の1/10)は30.4%を支払っている。
ポール君(9/21)
バフェットの言う通り、税率が秘書より低い富裕層はかなりの割合で存在する。Tax Policy Centerが新たに出した表を見よ*1。しかもこれは逆進的な州税や地方税を考慮に入れていないのだ。確かに米国の税制は総体的には累進的だが、皆が思っているほどでは――特に上位層においては――無い。
グレッグ君(10/5)
税政策についてよく耳にする意伝子の一つが、オバマ大統領は単にクリントン時代の税体系に戻したがっているだけ、というものだ。これが問題なのは、事実と違うからだ。
Tax Policy Centerのこの表が、その神話を払いのけるのに役に立つ。表の最左列(クリントン時代の税制)と最右列(オバマの提案する税制)を比較してみると、次のことが分かる:クリントン大統領と比べた場合、オバマ大統領は人口の下位99%の実効税率を約2%引き下げ、人口の上位1%の実効税率を約2%引き上げようとしている。
この政治的選択に同意するも良し、異議を唱えるも良し。ただ事実は明らかだ。オバマ大統領の政治的嗜好は、クリントン大統領のいかなる税政策に比べても、所得再分配(「階級闘争」とも言う)に傾いている。

*1:ただしその表には計算誤りがあったとして、Tax Policy Centerはその後(9/23)引っ込めてしまった。退職プランに関して高所得者層の所得を高く見積もり過ぎ、そのため税率を低く見積もり過ぎたとの。修正した数字を出すとしているが、2週間後の今もまだ出ていない。なお、元の表をクルーグマンが要約したものは彼のエントリにそのまま残っている。