コント:ポール君とグレッグ君(2011年第10弾)

7日エントリで取り上げたISLM論争にマンキューも加わった。7日エントリでは今回の論争はイデオロギー的色彩が強いという感想を書いたが、そうした傾向に反し(!)、今度のマンキューはクルーグマンに諸手を挙げて賛成している。

ポール君
ISLMは短期のマクロ経済にとって最低限必要な変数を備えたモデルであり、流動性選好と資金貸し出しが同時に成立することを理解する手段であり、価格伸縮性が完全雇用を取り戻す過程(の困難性)について語る際に不可欠なツールであり、流動性の罠について解説する際に有用な道具である。いつも言っていることだが*1、ISLMを理解する経済学者は、それを自分は超克したと夢想している経済学者よりも、ほぼ間違いなく優れている。
Matt Rognlieは、中銀が実際には貨幣供給ではなく金利を目標に据えていることを理由にISLMに文句を付けている。また、固定された貨幣供給を仮定するよりも、中銀の反応関数を取り入れた方がディスインフレーションの過程などをより良く描写できるという技術的な問題もある。しかし、それらの点は別にISLMと相矛盾するものではない。中銀の実際の金融政策に近付けるのは大いに結構だが、それは思考実験の性格に関わる話で、用いるモデルの話ではない。
グレッグ君
ポール君がISLMモデルを擁護しているが、完全に同意する!
現在、中級マクロ課程からISLMを外してもっと現代的な動学マクロを教えよう、という動きがある。ポール君と同じく、僕はそれは間違いだと思う。僕の中級マクロの教科書には、動学的マクロモデル(ベビーDSGEモデルと言えるかもしれない)を扱った章を付け加えているが、学生がこのモデルを理解するための最善の準備は、ISLMのロジックを頭に入れておくことだ。


なお、マンキューは5年前にもISLM擁護論のブログエントリを書いており、それを今回の論争に絡めてMark ThomaがEconomist's Viewに改めて上げている。そちらのエントリでマンキューが「標的」にしているのは、今回の論争でRognlieが持ち出し、それを受けてタイラー・コーエンも自分のISLM反対論の補強材料として引用した、デビッド・ローマーのISMPモデル*2である。マンキューはISMPモデルはISLMモデルの補遺に過ぎないと結論付けており、ThomaもそれでISMPの話は決着済みだったはず、と書いている。
(ちなみにそのエントリでマンキューは、クルーグマンの以前のISLMに関する小論*3正式版*4)を紹介している。この小論については本ブログでも以前触れたことがあったが、当のクルーグマンは今回のエントリで、そんなものを書いたこと忘れていた、歳だな、とのたまっている。)


また、Nick Roweこちらのエントリで、MP曲線も自分にとってはLM曲線に過ぎない、と書いている。これは小生が7日のエントリで

本ブログでも何回か紹介してきたNick Roweは、LM曲線(場合によってはIS曲線も)を様々に変化させて議論を展開しており、そうしたバリエーションを許容することも含めて考えれば、やはりLM曲線の問題がISLMモデルにとって致命傷になることは無いのではないか、という気もする。

と書いたことと符合する。実際、Roweはそのエントリで、以前ここで紹介したカナダ中銀の反応関数としてのLM曲線について再説している(彼はRognlieエントリのコメントでもそれについて書いている)。


その一方でRoweは、クルーグマンが今回のエントリでISLMモデルを債券、財、貨幣の三市場モデルと表現したことに異を唱え貨幣経済ではそれは二市場モデルだ、と改めて持説*5を強調している。

*1:cf. 7日エントリの脚注6。

*2:マンキューがリンクした論文はこちら)。

*3:2ヶ月ほど前に山形さんが訳された

*4:クルーグマンプリンストンのサイトにも上がっている

*5:cf. ここ