ISLM論争・続き

7日昨日のエントリで拾いきれなかったISLM論争に関するネット上の言説を以下にまとめてみる。

  • デロング
    • FOMC開催時という間歇的なタイミングでしか貨幣供給の変化が起きない現状では、M固定というLM曲線の仮定も現実味を持つ*1
  • サムナー
    • モデルは可能な限りシンプルにすべき、というデロングとクルーグマンの見解には賛成。だが、そうなると財と貨幣だけで十分で、債券イラネ。金利が話に入ってくると却って訳が分からなくなるので*2。むしろ代わりに名目GDP先物(たとえ仮想的なものとしてでも)を入れた方が話が分かりやすくなる。
  • デロング(上のサムナーのエントリに反応)
    • サムナーやMatt Rognlieは2008年の金融政策が緊縮的だったと言うが、それは誤解を招く表現。ベースマネーは3倍に膨らみ、国債金利も下がっていたのだから、緩和が不十分だった、と表現すべき。ISLMの枠組みで考えればそのことが明確になる。
      • このエントリのコメント欄にはAndy Harlessが登場し、引き締め的か緩和的かの基準は恣意的なものなのだから、然るべき基準――例えばサムナーは流通速度で調整した貨幣総量を念頭に置いている――に照らして引き締め方向なら緊縮的、緩和方向なら緩和的と呼ぶのは正しい、とサムナーを弁護している。これにデロングは一旦反論したものの、最後には「Touché(一本取られた)」と引き下がっている*3
        • サムナー自身もこのコメント欄に登場し、自分の反論よりHarlessの反論の方が効果的、と評している。
      • また、Angry BearのKen Houghtonは、準備預金に付利しておいて何が金融緩和か、とかなり激越な言葉も交えながらデロングに反論している
  • カール・スミス(ここここここ
    • 財、貨幣、債券の代わりに財、貨幣、銀行を考えるBL-MP(Bank Lending-Monetary Policy)モデルを提唱。総需要は実際には銀行を介して実現する、ということで、IS曲線をBL曲線に置き換え。
    • このモデルでは、政府債務の増加は、信用度の高い債務の増加ということでBL曲線を右にシフトさせる。
      • デロングがこれを取り上げ(ここここ)、この優れた考えのお蔭で一つ賢くなった、と激賞している。
      • タイラー・コーエンも「Karl also has had some excellent posts on IS-LM and related matters」と評している
  • [追記]クルーグマン
    • 読者の求めに応じてISLMを解説。
      • サムナーが、ゼロ金利における水平のLM曲線で流動性の罠を示した同エントリ中の下図に反発し、確かに一時的にベースマネーを3倍にしても効果は無いかもしれないが、それを恒久的にするとFRBが宣言すれば期待インフレ率が上がらない筈が無い(ひょっとしたら2桁になるかも)、そうなればIS曲線は右にシフトして金利が正のところでLM曲線と交わるだろう、と書いている(ただしその後で、貨幣増を恒久的にするよりも、名目GDPや価格の水準目標政策の方が望ましい、と持説を主張することも忘れてはいない)。

           

*1:7日エントリで紹介した通り、6年前には逆のことを書いていたのだが…。

*2:最近道草でが上がった以前のエントリでもサムナーはその点を強調している。

*3:ちなみに最近日本でも似たような論争があったが、そうした基準についてまで話が発展しなかったので、そちらの議論は尻切れトンボに終わった感がある。