ロバート・ルーカスの矛盾?

9/17エントリでリンクしたデロングブログでのロバート・ワルドマンのコメントでは、ロバート・バローの「変節」が批判されている。具体的に批判対象となったのは、2009年の景気刺激策にバローは反対だったはずなのに*1、9/11WSJ論説では、当時は景気対策のために財政赤字を膨らませることはやむを得なかった、という趣旨のことを書いた点である。


そして、今度はデロング自身がロバート・ルーカスに対して同様の批判を行っている。彼が槍玉に挙げているのは、今話題になっているルーカスのWSJインタビュー記事の以下の一節。

Mr. Lucas believes Ben Bernanke acted properly to prop up the system. He doesn't even find fault with Mr. Obama's first stimulus plan. "If you think Bernanke did a great job tossing out a trillion dollars, why is it a bad idea for the executive to toss out a trillion dollars? It's not an inappropriate thing in a recession to push money out there and trying to keep spending from falling too much, and we did that."
(拙訳)
ルーカス氏はベン・バーナンキが経済システムを支えるための適切な行動を取ったと考えている。彼は、オバマ氏の当初の刺激策に問題は無かったとさえ考えている。「もしバーナンキが何兆円も繰り出したのが素晴らしい仕事だったと思うならば、政府が何兆円も繰り出したのが悪いと思うはずがありません。景気後退期に世間にお金を流し込み、支出が落ち込み過ぎるのを防ぐのは不適切なことではなく、我々はまさにそれを実施したのです。」


これは、2009年3月当時の彼の次の言葉と矛盾しているではないか、というのがデロングの批判である(以下はこのエントリでの拙訳)。

クリスティーナ・ローマーについて言えば、私は次のようなことが起きたのだと思う。彼女の仕事の第一日に誰かがこう指示した。あなたはこの問題の回答、財政刺激策を擁護する報告を、月曜の朝までに提示しなくてはならない。財政刺激策がどのようなものになるのか、誰も彼女に伝えていないのにも関わらず。・・・それは諸々の理由によって既に策定された政策に対する、なりふり構わぬ合理化だ。
もし税金をある人から徴収して橋を作り、橋の建設業者に支払いを行なったら、差し引きゼロだ。・・・乗数を適用する対象などない(笑)。橋の建設業者に乗数を適用した後に、橋の建設のために税金を徴収した人にマイナスの同じ乗数を適用しなくてはならない。知っての通り、税金の徴収を遅らせても同じことだ。


なお、デロングは今回のルーカスのインタビューをノアピニオン氏のブログ経由で引用しているが、そこでノアピニオン氏は、このケインジアン政策を評価するような言葉はルーカスのマクロ経済モデルと矛盾しているのではないか、と指摘している。


一方、David Andolfattoは自ブログにそのインタビュー記事を全文転載しているが、コメント欄でのやり取りで、彼が以前ルーカスと交わした会話からすると、ルーカスの財政刺激策支持も特に驚くに値しない、と述べている*2

*1:cf. このエントリ

*2:こうした“ルーカス解釈”の分裂は、このエントリで紹介した混乱を彷彿とさせる。